写真 山田永里子

その11 思考



 俺はたくさんの格闘技の選手を見ている。必然的にたくさんの格闘技の試合を観戦し、たくさんの雑誌を読む。かなり格闘技に詳しい人間だと自負している。
 彼らと話している中に、素朴な疑問がたくさん出てくる。これは決して悪口ではない。自分が見ている選手を尊敬しているし、みんな素直で真剣に各格闘技で、頂上を目指して頑張っている。だが、やはり疑問はつきない。

 例えば総合の試合で片方は柔道着を来て、もう片方は裸で戦っているのを見る時がある。それを見て普通に
『なんで、片一方は柔道着を使って絞めたりしていいのだ?平等じゃないじゃないか?』って思う。
 もちろん、いろんな格闘技選手に聞いたりするし、雑誌にも柔道着を着ることは、相手に掴まれて動きを制限されたりすることで、着ることへの善し悪しは書いてある。しかしやはり平等ではないと思う。日本で生まれた格闘技団体だし、柔道も日本発のスポーツだから良いのか?
 柔道は本当に素晴らしいスポーツだと思う。オリンピック競技だし、その道で優れた人は半端なく強い。パワーも身体能力も、ズバ抜けてすごい人達の集まりだ。だからこそ、そんな凄い人達が柔道着を使って攻撃したら?それはかなうわけがない。ちょとやそっと対策したところで。
 そうなると極論だが、剣道の格好して竹刀を使っても良いという事にならないのか?竹刀を手から外れないように手に括り付けて、掴まれたら身動きとれないのと何が違うのだ?みんなは疑問に思わないのか?

 名前は出せないが、ある格闘技の興行で、もの凄いパワーが売りの選手が出場した。彼は何もかもがデカイ。当然、手の大きさも常識外のサイズだ。テレビのVTRでも、それを強調した作りにしている。
 彼を直接見る機会があった。一緒の場所で練習した事があったのだ。
本当にデカイ。山のようだ。手を見たら、グローブしている俺の手と大差ないくらい。世の中いろんな人間がいるんだな〜と思うしかなかった。その彼が試合をした。ここで問題発生である。
 総合の試合は、グローブのサイズを選べる。MとLというように、選手の手の大きさで決める。そして選手によりバンテージを巻く場合や、そのまま直にはめる場合もある。そこでやっぱりというか、彼のデカイ手には主催者側が用意したグローブがハマらなかった。
 あれだけテレビで手を売りにしていたのに、そこには気付かない。
もう試合前だ。彼はいつも自分が練習で使っているグローブで、試合をやろうとする。それに対して、対戦相手がクレームを付けている。まあ当然だけど。明らかに主催者側のミスだ。結局、試合をしないわけにはいかないので、その自分のグローブをはめて試合することになった。結果はグローブ云々関係なく、あっけなく彼は負けたが。
 そんなやりとりを聞きながら、勝敗云々ではなく不思議だと思った事がある。あんなにグローブの違い(とは言っても、同じ形)で揉めたのに、メインでは柔道着を着た選手と裸の選手が試合をしている。
 これってどうなんだ?
 俺だけが感じる不思議なのだろうか?
 もちろん、ちゃんと確立している総合格闘技団体もある。みんな裸足で、スパッツ。同じ格好で試合している。これがスポーツの一番大事な事なのでは?

 ランキングもそうだ。俺の見ている選手が、1位の選手に勝ちランキングに入った。それは素晴らしい事だ。翌月のランキングを見る。見て驚いた。たった三人しかいないのだ。それなのに、スーパーとついてる階級もある。階級増やす前に、選手層を厚くするのが先ではないのか?
選手は悪くない。一生懸命に練習し、戦った結果だ。だがそういう疑問は尽きない。
 ラウンドの時間にも驚いた事がある。
1R目は10分で、2、3Rは5分に変わる。でもどのラウンドも10ー9とかの10点方で振り分けをする。最初の10分間という倍の時間を、支配し相手に勝っているのに、半分の時間を2R取られたら判定負けするシステムだ。
 確かにこれは選手同士は平等なルールかもしれない。でも合計20分戦い、半分の10分は勝っていても、残りの5分と5分の10分を取られたら負ける。やっぱり疑問に思う。同じ5分1Rにしている団体がほとんどなのに、なぜこのシステムを使っているのか?不思議である。

 自分の見ているキックの選手がチャンピオンになり、防衛も成功し負けずに返上した。理由はタイで打倒ムエイタイを目指すために。
 その選手と話していて、また疑問に思った。ふとした会話で
『お前はゴールデン放映される団体に出ないの?』って聞いた。すると
『あれは世界チャンピオンじゃないと、なかなか声かからないんですよ』って言うのだ。びっくりして雑誌を見ると全員ではないが、肩書きに世界チャンピオンって付いている選手がたくさんいる。たくさんのチャンピオンが出るトーナメント。それは別にかまわない。しかし勝っても統一するわけでもなく、負けてもチャンピオンって肩書きは取れない事に驚く。
 ボクシングはチャンピオンになったら、たとえノンタイトルでもその体重で負けることを許されない。負けたら剥奪されてしまう。だからノンタイトル戦の時は、1ポンドオーバーとかの契約体重で試合する事が多くなる。
 俺はこの事を初めて知った時に、とても権威のあるベルトだな〜って素直に思った。他の格闘技のベルトは、おそらく違うのだろう。

 ボクシングはチャンピオンになるまで、とても長い道程がある。
C級ライセンスからスタートし、B級、A級へとステップアップし、それで初めて日本ランキングに入る権利が与えられる。日本ランキングに入っても、タイトルマッチまで辿り着くのは容易ではない。
 福島も2年かけ、やっとチャンピオンカーニバルで挑戦できた。これだけ苦労して掴んだベルトだ。やっぱり大事にしたい。ファンが望む試合をする事が大事なのも、大変よく理解できる。でもこれだけの苦労して、掴んだベルトを少しでも長く持っていたい。
 う〜ん、難しい。
 それにたとえノンタイトルだとしても、負けた後に防衛戦するのは、なかなか世間が許さないだろう。長い道のりを必要とし、権威のあるベルトだからこそ、なかなか勝負が出来なくなるのか。
 何か矛盾してる気が。

 いろんな格闘技団体が、個々にナンバー1を決めるためにトーナメントを開催している。世界1を決めるっていう、壮大なアドバルーンを掲げて。びっくりするのは、初参戦でトーナメントに出場している選手がいたりする。今まで、他のスポーツをやっていただけなのに、その団体が唄う最強トーナメントに出れる。中にはグローブを付けて殴り合う事すら、初めての選手だと言うことを、テレビの解説が普通に言ったりしている。
 やっぱり不思議だ。

 ボクシングも新人王やB級やA級、最近はビータイトなどのトーナメントがある。たくさんあるが、盛り上がりに苦しんでいる感は否めない。
でももし、トーナメントを4回戦で戦うようにして、全部のプロ選手を出せるようにしたらどうか?1勝しかしていない本当の4回戦の子と、日本ランカーや日本チャンピオンなどが、同じトーナメント出るとしたら?安全面もそうだが、それよりも上のA級ボクサーは、誰も出場しないだろう。何年も苦労してやっと手に入れた地位を、まだまだ苦労してない4回戦の子と戦う意味がない。そしてこう思うだろう。
『俺と戦いたいなら、ここまで上がってこい!』と。

 これがボクシングだ。頑張り続け、いろんな人生を背負った、とても重たく由緒ある戦いの場だ。もし他の格闘技のように体重を大まかに区切り、世界1を決める4回戦トーナメントを開催したら?60キロ以下、70キロ以下くらいの区切りで。ここにはあげきれない程の夢のカードが考えられる。2、3階級を飛ばした夢のカードの数々。
 4回戦でなら、体重差は大丈夫か?どうなのだろう?長い歴史で細分化された階級だ。たった4回戦でも、体格差は出るだろう。
何より1試合何億も稼ぐ人間達を、一つのトーナメントに出場させるなんて、どれだけのお金が動くのだろうか?それにこんなトーナメントを開催したら、日本人は一人も出場できないのではないか?これではダメだ。他の格闘技と比べられ、またボクシング人気低迷と騒がれてしまうから。怖い、恐い。

 ただボクシング界も、他の格闘技界から学ぶべき点はたくさんあると思う。
 決定的に遅れているのが、自分プロデュースの差だろうか。この面においては、かなりの差があると思う。ボクシングの世界も個性的な人間は多い。しかし、それを表に出せないような雰囲気がある。言いたい事を言うと、すぐに生意気だと叩かれる。これでは個性的な選手が消えてしまう。
 今は新しい時代に来ていると思う。今の格闘技ブームが、いつまで続くとかなんて、俺なんかには全く分からない。しかし他の格闘技が潰れるのを待っていては駄目だ。これでは、他力本願すぎると思う。ボクシングを引退した選手が、他の格闘技に出場していく。彼等には何の罪もない。頑張って欲しいと心から思うし、俺なんかで良かったらいつでも協力したい。
 それに他の格闘技団体の興行に行き、セコンドのお手伝いとして会場にいると、
『こんなに多くの人前で、注目されながら戦いたい!』
という気持ちになるのは、仕方がないというより、しごく当然の考えだと思えてくる。
 そうは言っても彼等が負けると、必ずボクシング時代の肩書きを使われる。
『元チャンピオン〜敗れる』って文字が紙面を飾る。試合はボクシングじゃないのに。そしてそれを見れば、やはり良くないイメージが浮かぶのは事実だ。今の格闘技はブームだけでは語れない、力と技を兼ね備えている。ちょっと練習したくらいでは、歯が立たないだろう。ボクシングがそうであるのと同様に。

 伝統のある世界的スポーツのボクシング。これは揺るぎない事実だ。
しかしいつまでも、選手の手売りチケットで興行をしていては、かなり厳しいのではないか。どんどん進化する、最新の兵器に対し、槍で応戦するようなものではないか。
『俺の時代はこうだった』的な、過去の産物は消し去るべきではないか。今こそボクシング界が、しっかりまとまり、力を合わせていくべきだと思う。

 日本での知名度は、日本の世界チャンピオンより、各団体で活躍している外国人選手の方があると思う。
CMなどでも見かけるし、何より俺が見ている格闘技選手の方が、一般に名を知られていたりする。門戸開放をした方がいいなどと、簡単に思いはしない。ましてや、訳の分からないタレントを使い、違った方向で盛り上げるのは嫌だ。
 一番大事な部分は、選手がボクシングをやりたいと思える環境作りなのではないか。ジムにしても、ボクシング界にしても、選手達はとても素晴らしい財産である。昔は〜だったからとか、俺の時代は〜だったのにという、発想は消すべきではないのか
 他の格闘技がブームで終わらずに、一つの競技として確立していくことを、本当に願っている。そうなることで、我がボクシングは変化を求められていくと思うから。伝統を重んじるのと、過去にしがみつき、居心地のいい場所にいるのとは、全く違うはずである。

頑張れ日本ボクシング!




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●山田武士
1973年、埼玉県新座市生まれ。AB型。
1996年、チンピラ(自称)からJBスポーツジムトレーナーに。

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