フレディ・ローチ氏 インタヴュー 





 現代最高のトレーナーといえば、真っ先に名前が挙がる数人の中にフレディ・ローチ氏も含まれるに違いない。パーキンソン病と戦いながらローチは多くの一流選手を育成し、マニー・パッキャオとの関係でアジアでも一際有名になった。

 世界中からひっぱりだこのそのローチ氏を、僕は11月下旬にLAに足を運んだ際にハリウッドのワイルドカードジムに訪ねた。

 アポも取らずに突然現れた日本人の不躾な質問にも、彼は嫌な顔1つせずに応えてくれた。パッキャオとエリック・モラレスの再戦にも自信を見せるローチ氏は、多くの選手たちから信頼を集めるのも納得の大変穏やかな好人物だった。



−ボクシングではフィジカルとメンタル、どちらがより重要だと思いますか?

ローチ氏(以下FR);もちろんその両方だろう。だが、ボクシングはとてもフィジカルなスポーツではあるが、その一方で勝敗を左右する要素の90%はメンタルだと私は思う。すべてのファイターは、良いコンディションを保ち、ハードにトレーニングしようと務める。だが試合では、そうやって得た能力をより上手く使いこなせる者が勝ち残る。戦略を立て、それに沿って戦い、さらに状況に応じてその戦略を変えることも出来る選手が優れたファイターだ。そんな選手になるにはメンタル面が強靭でなければならない。


−ボクシングに科学的な考え方は必要だと思いますか?

FR;そうだね、「スイートサイエンス」なんて言葉もあるくらいなのだから。科学的な分析は必要だろうし、それを踏まえた上で科学的根拠のあるトレーニングも考えて取り入れて行かねばならない。ただ・・・・・・全てのボクサーはそれ以前に、それぞれの異なった信念、特徴、スタイル、長所を持っているんだ。そういった要素を把握する事こそが何より重要であると思う。また、私はこうも信じている。「チャンピオンとは生まれるもので、作られるものではない」。


−あなたの指導法、存在がチャンピオンを作ったとは考えない?

FR;多くの優れたファイターと組むチャンスに恵まれて来た私は、本当に幸運だった。試合前も、試合中も、私は彼らを助けることは出来る。しかし実際には勝敗はすべてボクサー本人次第だよ。例えばジェームス・トニーを見てみよう。私は彼と組んで賞賛を得てもいるが、私の助け以前に、彼はまさにナチュラルファイターだった。戦うために生まれて来たような男だ。そんなボクサーを作ることは誰にも出来やしない。


−それではあなたが普段心掛けていることは?

FR;私はそれぞれのボクサーにとって何が最善かを常に考える。選手たちを1人の個人として扱い、彼らについて学ぼうと努力する。すべてのボクサーはみんな違う人間なんだ。私はどうやって彼らの心の中に入り込み、どうやって信頼を勝ち得るかをこれまで学んで来た。信頼関係が築ければ、私が何かを語った時に彼らはしっかりと聴いてくれるようになる。そうやってボクサーたちのコンディショニング、戦略立てを助けることが出来る。ただ結論を繰り返すと、実際に力を発揮し試合に勝つのは彼ら自身であって私ではない。それだけは間違いない。


−あなたにとってのエディ・ファッチとは?

FR;とても静かで、思慮深く、ボクシング界では希有な人物だった。常にファイターを気遣い、ボクシングを金を稼ぐ手段以上のものとして考えていた。もちろん優れたティーチャーでもある。指示は的確で、相手に理解させるのが上手い。また私個人にとっては、良き指導者であり、父親のような存在でもあった。素晴らしいストーリーを幾つも語ることの出来る本当に素敵な人だった。ボクシングの歴史を形作る1人だ。


−ファッチ氏こそがあなたがトレーナーになった理由だったのですか?

FR;その通り。最初に私に助けを求めたのはバージル・ヒルだった。ヒルはエディの選手だったんだけど、当時のエディは他の選手たちの面倒を見るので忙しいかったから私に役目が来たんだ。だからきっかけになったのはバージルの頼みだったんだけど、エディの存在が無ければ私がトレーナーを志すことはなかっただろう。エディは9年間も私のトレーナーであり、当時の私は彼のアシスタントをしていた。本当に多くのことを学んだよ。エディの指導法は他と違っていたし、その頃には私も若い頃より成熟していて、より深く物事を考えられるようにもなっていた。良いタイミングだったのだろう。






−ここからはマニー・パッキャオについて幾つか質問させてください。パッキャオのこれまでのベストバウトの1つに挙げられるのがマルコ・アントニオ・バレラ戦ですが、あの試合前の具体的な戦略は何だったのですか?

FR;ボディだ。バレラの試合をたくさん観て、彼はボディを打たれるのを嫌うことに気付いた。だからあの試合ではマニーに速攻を仕掛けさせ、ボディを打たせ、そして早い段階でダメージを与えることが出来た。それ故に、バレラは速いペースの流れについて来れなかったんだ。実は、(エリック・)モラレス戦でもほとんど同じプランで臨んだんだよ。ただこの試合では思い通りにはことが運ばなかった。第1ラウンドはボディショットが効果的だったのだけど、上手く行ったのはそのラウンドだけだった。モラレスのボディは効いていたと思う。ただその後、マニーはプランから離れて行ってしまった。モラレスをノックアウト出来ると思ったんだろうね。そして私も、マニーを元通りの場所、戦前のファイトプランに戻すことが出来なかった。


−モラレスとのリターンマッチではそのプランはどうなるのでしょう?

FR;基本的に似たようなものになると思う。ただ、改良はさせる。中身?内緒だよ(笑)。今のマニーはプラン通りに戦わなかったミスに気付いているし、今回は前戦の反省を踏まえたプランを考え、必ず踏習させる。今度はやってくれるだろう。ボクサーは負けることによって目を覚ますんだ。勝ち続けると時に暴走しがちで対話も難しくなるけど、負けると間違いにも気付く。


−次はモラレスに勝てますか。

FR;イエス。勝てるし、勝つべきだ。マニーのベストウェイトは126パウンドなのだから体格的にはやや不利だけど、それでもすべての能力を総合して考えれば、マニーが勝つべきだと思う。もしも敗れるようなことがあれば、私は酷く落胆することだろう。






−あなたのトレーナー歴の中で出逢ったボクサーの中で、最も才能のあった選手というと誰になりますか?

FR;ジェームス・トニーだ。ナチュラルファイター。とにかくすべての動きが自然なんだ。ファイトのために生まれて来た男だよ。信じられないほどの才能だ。私はこれまで多くの優れたボクサーと組む機会に恵まれてきたけれど、タレントに関する限りトニーの右に出る者はいない。


−ただ、トニーは規律(discipline)に欠ける?

FR;ちょっとね(苦笑)。もっとも、ただ怠け者なわけではなく、やる時はやる男なんだけどな。トレーニングはとても厳しく行う選手ではある。ただ試合の合間にリラックスすると、すぐにオーバーウェイトになってしまう。しかし、今は(ハシーム・)ラクマンとのファイトが決まりかけている。もしもこの試合が決まれば、トニーはこれまでより激しくトレーニングし、より軽いウェイトで万全で臨もうとするだろう。彼は本当にもう一度チャンピオンになりたいと心底から思っているからね。


−マイク・タイソンとはどんな人間ですか?

FR;グレート・ガイだよ。私はマイクが好きだったし、共にトレーニング出来たことも素晴らしかったし、話すのも楽しかった。彼は私を尊敬してくれたし、私たちはとても良い時間を過ごす事が出来たと思っている。ただ・・・・・・マイクは歳をとり過ぎたとは言わないが、余りにも長い時間このスポーツを続け過ぎたのかもしれない。私と出逢った時には、もう厳しいトレーニング続ける気迫が残っていなかった。ボクシングに限らず、人生では余りに1つのことを長く続けるといつか倦怠する。私が自分のキャリアを振り返っても、100%のエネルギーを注がずに戦っていた時期が確かにあった。昨今のマイクはそれと同じ時期に差し掛かっているのだと思う。実際に彼の内面には、もうファイトなどしたくない自分がいるはずだ。だけど、とにかく根本的には私は人間としてのマイクが大好きだ。彼は私の現役時代を観て育ち、そして私のスタイルが大好きだったと言ってくれる。そして私を誰より尊敬してくれる。私自身はそれに値しないと思うがね。


−ジョニー・タピアとは?

FR;ジョニーも良い男だ。とてもフレンドリーで、いつでもハッピーな男だった。クレイジーだけど、それも悪い意味でではない。しかし残念ながら、彼はドラッグ中毒の問題を抱えていた。試合が無い時は、彼はドラッグにより深入りしてしまっていたと思う。いずれにしても、ジョニーはもう引退するべきだよ。歳を取り過ぎたし、肉体的にも大きく下り坂だ。ボクシングのキャリアと実生活、その両面からの疲れの蓄積が出て来てしまっている。もう2試合前には引退を説得したのだけど、彼はまた次の試合を計画しているようだね。私たちは互いに大人なのだからこれ以上言うつもりは無い。ただ、もうトレーナーとして彼と組むつもりもない。


−ブライアン・ビロリアの未来をどう予測しますか?

FR;とても明るい未来が広がっているだろう。ブライアンは自己管理がしっかりとしているし、クリーンな生活を心掛けている。良い仲間たちにも恵まれているようだね。とりあえず(ホルヘ・)アルセとの試合が噂されているけど、正直言って現時点で準備が出来ているとは思わない。ビッグファイトに飛びつく前に、2,3試合チューンナップをこなす事になるだろう。だけど将来的には、ブライアンは例えばマイケル・カルバハルのように軽量級に大金をもたらすような存在になるだろう。そしてゆくゆくは日本で試合をするチャンスもあるかもしれない。108、112パウンドあたりでは日本には良いマーケットが広がっているからね。


−あなたはこれまで何人かの日本人選手とも組んだ経験がありますが、日本人ボクサーの総合的な印象は?

FR;トータルではとても良い感情を持っているよ。規律がしっかりしていて、ハードトレーニングを怠らない。西島(洋介)が初めて出逢った日本人ファイターだったけど、彼のことはやはり印象に残っているな。2年間、毎日のように顔を合わせたし、それに素晴らしい才能を持っていた。ニシがジェームズ・トニーと凄いスパーリングを行ったこともあった。


−西島とトニーがスパーリング?

FR;そう、素晴らしい内容のスパーだったから今でもよく覚えているよ。ニシはクイックネスとパワーを兼ね備えていた。ただ、アゴの強さだけはちょっと疑わしかったな。ニシは今では日本でK?1のリングに上がっているんだろ?いずれにしても、ニシは紳士的で謙虚な人柄のナイスガイだったから、今でも彼の幸運は心から祈っている。


−それでは日本人ボクサーの弱点をあえて挙げてただけますか?

FR;弱点?弱点は人それぞれだから一概には言えないな。とにかく日本人はハードワーカーで才能もある選手が多いと思う。ペニャロサと戦った徳山や、それからユーリ・アルバチャコフなどは素晴らしくタフな選手だった。ただ・・・・・・私にとって彼らと組むことが難しいのはやはり言葉の問題だ。私には彼らの言語を話すことは出来ない。それからもう1つ、日本人はめったに国外に出ないことで、自らの能力を制限してしまっているように思う。日本には充分なマーケットがあるから、国外に出る必要がないのは分かっている。だけど、ボクシングで真の意味でスターになりたいなら、どこの国の人間だろうとやはりアメリカに来なければいけない。そう、まさにマニー・パッキャオのようにね。



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●杉浦 大介 (すぎうら だいすけ)
1975年10月、東京都出身。日本で大学を卒業と同時に渡米、フリーライターに。現在はニューヨークに在住で、ボクシング、MLB(「スラッガー」誌等)、NBA(「NBA新世紀」誌等)、NFLなどを題材に各HPや雑誌を舞台に執筆活動中。

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