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先月28日の日曜日、大阪市中央区のマイドーム大阪にて、財団法人日本ボクシングコミッション(以下JBC)と西日本ボクシング協会の共催による「プロボクサー講習会」が開催され、私も受講してきた。
JBCや協会のこうした主に選手向けの講習会は初めてであり、選手契約やボクサーの健康管理の他、「プロボクシングの品位を守るために」と題された講義も行われ、JBCと協会から、一連の亀田騒動揺れるボクシング界の内部秩序を早くも正しにかかろうとしている姿勢が感じられた。
講習会自体はそもそもは新人のプロボクサー向けに開催されたようだが、会場には4回戦の選手だけでなく、上はWBC世界バンタム級王者長谷川穂積選手まで約230名、他にもジムオーナーやマネージャー、トレーナーなど50名、総勢280数名が一同に介し、選手及び関係者からもその関心の高さが窺われた。
講習会では、1「JBCと協会の役割、マネージャーとボクサーの契約について」2「契約・選手育成などについて」3「適正な減量方法や試合後のアルコール摂取度の弊害について」4「選手として、社会人としての体験談」の以上4題目について、それぞれ30〜40分ほど関係者から講義が行われ、その間質疑応答も行われた。選手からもファイトマネーや減量についてなど、普段疑問に思っていることを積極的に質問する姿勢が見受けられ、今回の講習会自体にはとても好感が持てた。
講義内容については各々大変興味深いところであり紹介させて頂きたいのは山々なのだが、全て書き出すとなるときりがないので割愛させて頂き、今回は個人的に特に関心の強いマネージャーとボクサーの契約に関する問題点、そこから派生して選手のモラルに関する問題について、講義の感想を交えながら私なりの考えをこの場を借りて紹介させて頂ければと思う。
プロボクサーはプロテストに合格後、マネージャー(=ボクシングジム)と契約書を交わす事になっている。だがその内容は、現在の契約では選手とマネージャーの関係を考えるとやはり力が弱いのは選手であり、テストに合格し一度そのジムで契約を結んでしまうと、後の選手の待遇、処遇は全てそのジム次第、というのが現状にある。
ほとんどの練習生は、自宅から通いやすいところや、知人の紹介などによってボクシングジムに入会して行くが、プロテストに合格すると、その時点で選手にジムを選択する権利は実質なくなってしまう。
しかし、実際はジムによってそもそもの資金力や選手の指導力、マッチメイク力にはかなり格差があり、育成方針やキャリアの積み方、マッチメイクやファイトマネーの点など、選手の思い通りに行かないケースは多い。また、それらの点で選手に不満があり、ジム側と話し合った上で解消されない場合でも選手に対応策はなく、かといって移籍も、現状では到底容易に出来る環境は整ってはいない。
講習会での安河内事務局長の話では、ジム側と選手がお互いのために力を尽くすと言う日本古来のクラブ制度(選手がジムに所属して活動する制度)におけるジムと選手の相互作用のメリットが強調されており、続く西日本ボクシング協会委員長、現六島ジム会長の枝川氏の講義でも、ジム経営の困難さ、資金繰りの難しさばかりが切々と語られ、選手には我慢ばかりが求められているように聞こえた。
安河内事務局長の説明によると、ここ10年間で移籍の問題でトラブルになるケースは減少傾向にあるとのことだが、実際は表面化していないだけで、移籍金や移籍先など選手がジムの条件に涙を飲んでいるケースがほとんどではないだろうか。
日本のボクシング界がクラブ制度を採っている以上、力のあるジムに選手が集中するなど移籍が横行する事態は混乱を招く可能性があり避けなければならないが、移籍自体に移籍前・移籍後の期限の条件など制限要項を加えるなどしてゆけば、そうした事態はある程度防ぐことはできるのではないかと考える。
移籍の問題は場合によっては選手の貴重な時間を奪い選手生命を左右する。ボクシングを始める練習生には当然ジムを選別することなどできないのだから、プロになった後はせめて選手の移籍はある程度確保されるべきであろう。
講習会翌日の某紙によるとJBCは今後、年数に応じた係数を設定しているJリーグを参考に移籍金の基準を設定することも検討しているようだが、選手の貴重な機会を損なわないためにも、最低限の移籍に関するガイドラインの策定は、早急な対応を期待したいところである。
続いて、選手のモラルとボクシング界の品位に関する講義では、プロボクサーがプロとしての自覚にかける点について現場での悪例がいくつかあげられ選手に注意が促されていた。
残念ながら中には非常に程度の低い話もあり、日常的な人としての常識さえ疑われるような話が挙げられ、正直残念だったのと同時にあまりのプロボクサーのモラルの低さに、妙な危機感すら感じられた。
ではなぜプロボクサーがプロとしての基本的なモラルや自覚に欠けるという事態が起こってくるのだろうか?
ボクシングというそもそもの競技特性にもあるように思うが、重大な要因の一つにはボクシングの競技におけるプロの格式が十分に確立されていない点に問題があると私は考える。
まず他のスポーツに比べてプロのライセンスの取得が圧倒的に容易であり、そのため選手数が増加しやすく、その数の多さ故に待遇(=ファイトマネー)が不十分になっている現状がある。
ボクシングのプロテストは筆記試験とわずか2Rのスパーリング(関西は時に1R)である程度の実力を見せられればライセンスが交付され、2006年度だけでC級で620名が合格し(1265人受験中)、約3200名のライセンスが交付されているという。センスの良い選手ならば、時に数ヶ月練習しただけでプロテストに合格する例もあるようだが、仮にもプロテストの合格率が49.0%というこの数字は、プロのテストとしてあまりに敷居が低すぎるのではないかと疑問に思ってしまう。
選手の数が多ければ、興行としては当然供給過剰で選手に与えられる給料も少なくなる。試合でもらえるファイトマネーはC級の4回戦で6万円、6回戦でも10万円と微々たる物であり、しかもそこから33.3%のマネージャー料が差し引かれる。支払方法もジムによってはチケットを規定枚数分自らが営業しなければ手にすることはできない。プロのライセンスが下りてもとても待遇がこの程度のものであれば、選手は自分達がプロスポーツマンだという自覚はやはり持ちにくいだろう。
興行の質も低い。先日行われた大阪のとある興行では、試合前の選手控え室に選手の友人らが平然と訪れ声をかけてゆく光景が見られた。激励は結構だが、試合前集中を高めている選手に悪びれもなく部外者が友達感覚で声をかけに来る様子は、全くもってプロスポーツの光景ではない。野球やサッカーの興行でこんな光景が当然見受けられるはずもなく、こんなところにも興行の質の低さ、プロボクシングの格式の低さが感じられる。
JBCや協会は、プロボクシングの格式の向上にもっと力を入れるべきだろう。
例えば、国内はライセンスの交付をC級で現在のB級、6回戦以上の実力に限定し、プロの選手層をより少数精鋭に限定し、その分選手のファイトマネーを底上げしてはどうだろうか。
選手の試合機会が減るという懸念もあるかもしれないが、昨年1年間で国内では303回の興行が行われており、試合数は実に2506試合に上るという。ボクシングのメッカ後楽園ホールでの興行でさえ、時に観客が1000人に満たない興行もあるのが現状であるにもかかわらずである。
現在のプロテストの合格ラインを上げることにより、プロボクサー全体のレベルを底上げし、選手数をある程度おさえ、興行の数を減らすことができれば、その分1回1回の興行の質を高めることができ、観客の数も増え赤字興行が減少し、選手の待遇も改善されるのではないだろうか。そして選手の待遇が改善されれば、自ずと選手一人一人に自分がボクシングという競技におけるプロのスポーツマンであるという意識が高まり、自覚がより芽生えるのではないかと思うのである。
最後に行われた元WBAバンタム級王者の六車卓也氏の講義でも、氏が現役を引退後、ミズノで社会人として働いてきた経験から、聴講しているボクサーにプロボクシングの社会的意義が訴えられ、同様にプロボクサーとしてのモラルの向上が促されていた。
昨今名立たる企業が不祥事を起こし、その存在意義をメディアで問われているが、プロボクシングもその社会的責任を果たせなければプロスポーツとしての存在意義を問われるのは当然であり、いずれは社会から淘汰されてしまうであろう。
選手一人一人に業界の使命を考えて欲しいなどと奇麗事は言わないが、せめてプロスポーツマンとしての最低限の自覚は持って頂き、神聖なリングの上では正々堂々とファンに最高のパフォーマンスを見せて欲しいと思うのである。
良くも悪くも、現在のボクシング界は亀田の登場によりかつてないほどに世間の注目を集めている。こうした中で、JBCや協会がいち早く選手や関係者に今回のような講習会を行ったことは極めて画期的であり業界発展の第一歩だと考える。JBCや協会には是非今後も継続的にこうした講習会を開催して頂き、選手には一人でも多く参加して欲しいと思う。
稚拙ながらではあるが、一人一人のボクサーがプロとしての自覚を持ちその責任を果たし、プロボクシングの本質的な魅力をファンに伝えてゆくことができれば、自ずとファンの信頼を取り戻し、業界の恒常的な発展につながると私は思うのである。
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