本当の実力(ちから)2



 試合開始のゴングがならされると、金井の動きには目を見張るものがありました。スピードの乗ったジャブで相手を牽制し、そこからストレート、フック、アッパー、左右ボディとバリュエーションに富んだ迫力のある攻撃を仕掛けていきます。課題とされていたディフェンスもスピードのあるウィービングとヘッドスリップで相手に的を絞らせず、それら全ての動きが2年前のタイトルマッチの敗戦時とは別格のものでした。

 しかし、それ以上に僕の目を奪ったのが、若干20歳の新鋭、吉澤選手の立ち上がりでした。金井の強打に怯むことなく巧みなディフェンスで冷静にパンチを外すと、その長身から相手を切りつけるようにするどいジャブ、ストレートを返していきます。特に吉澤選手のジャブは、相手めがけて最短距離を一直線に伸びる理想的なもので、見るからに外しにくそうなものでした。
 前座の試合とは打って変わってハイレベルな攻防に、観客はむしろ静まり返り、固唾を呑んで二人の試合の行方を見守っているようでした。

 試合を左右するであろうポイントの一つに、金井の両目の傷がありました。金井は四回戦の頃から両目の瞼が切れやすく、これまでにも何度となくカットを繰り返してきており、試合のたびに切れるその傷はもはや慢性化している模様でした。吉澤選手の鋭いジャブに、“これはまずいな”と思ったのも束の間、案の定2Rから金井の左目が腫れ上がって行きました。

 序盤3Rまではペース争いが続き、ポイントもどちらともなく試合は進んで行きましたが、4R以降は金井の左瞼の腫れが大きくなると共に吉澤選手が次第にペースを握って行きました。吉澤選手は金井の強打にも表情一つ変えず憎いほどに冷静なボクシングを展開し、ガードの隙間にピンポイントで抜群のスピードでコンビネーションブローを返して行きました。

 5R中盤になると、次第に青コーナー下が慌しくなって行きました。金井の左瞼は出血こそ確認することはできませんでしたが、すでに半分以上は塞がっている状態でした。5R終了時のインターバルにレフェリーと同時に青コーナー側のジャッジからも彼の左目にチェックが入ると、金井は試合の終焉が間近に迫っていることを察したのか、6R、これまでのラウンドとは打って変わって一気呵成に前進して行きました。果敢に接近戦を挑み、自慢の強打を吉澤選手に打ち込んで行きます。しかし、得意の接近戦でも吉澤選手のディフェンスを崩すことは出来ず、むしろ打ち終わりの体が止まったところ素早いコンビネーションを返され、ポイントを失って行きました。

 7Rが終わった時点で、僕の採点は3ポイント吉澤選手リードでした。金井の攻撃的な姿勢は全く変わることはありませんでしたが、左目はもはや完全に塞がれて、冷静さを失っているようにも見えました。

 ただそれでも、金井の勝利への飽くなき執念が揺らぐことはなく、いままで何度となく相手をリングに沈めてきたその両の拳で、吉澤選手を攻め続けるのでした。



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●清水 喬之(しみず たかゆき)
1979年神奈川県横浜市出身。横浜市立大学商学部卒。横浜さくらジム所属。98年プロデビュー。米国でのキャリアを経て02年フェザー級東日本新人王獲得。04年眼疾で引退。現在は野村證券(株)勤務の傍ら、週末エディタウンゼントジムでトレーナーを務めている。Legacy Gym(http://www.legacygym.com/)スポンサリング。

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