その67 臼井知史さん


写心 山口裕朗



 「漁師になりたいんですよ。今、カツオの一本釣りを勉強中なんです。四国へ行ってね・・・、高知でね、自分の島で自給自足で暮らすのが夢なんです・・・」
 プロボクサーとして34戦を戦い抜き、希少価値の高い“石職人”としても活躍。また、俳優としても数多くのドラマに出演――と、自由奔放な人生を生きる男が、楽しそうに語ってくれた。

 元プロボクサーで、現在は小学館「ビッグコミック」の副編集長として活躍中の木暮義隆さんからご紹介いただいた今月の“戦士”は、今年37歳の定年で引退したヨネクラジムOBの元日本ランカー臼井知史さんだ。

 実は少し前に、後楽園ホールで「新田さん!今度紹介されました臼井です」と、声をかけられて初めて臼井さんと顔を合わせていた。
 「ああ、どうも臼井さん。今度よろしくお願いします!」と、挨拶させていただいた。

 今回対談するにあたり、事前にインターネットで臼井さんのことを調べておこうと検索してみたところ、亀田興毅とのスパーリングでの、あわや乱闘――というハプニングや、亀田興毅vsサマン・ソーチャトロン戦の会場で、クレイジー・キムとともに、興毅の父・史郎氏と一色触発の騒動に発展した際の当事者ではないか・・・。
 しかし、今回はあまりそんな事は気にせずに、臼井知史という人間との会話を楽しむことにした。

 ヨネクラジム出身の臼井さんだが、引退後は青木ジムで汗を流している。今月も“写心家”山口裕朗氏と一緒に、高田馬場にある青木ジムをお訪ねした。
 「こんにちは。今日はよろしくお願いします!」と挨拶を済ませると、臼井さんは、現役のボクサーとマスボクシングを始めた。まだまだエネルギッシュに動く臼井さんを見て、どんな話が聞けるのだろうとワクワク気分だった。

 臼井さんが練習を終えると、我々はジム近くの居酒屋へ向かった。

 昭和46年9月、大阪生まれ祇園育ちの37歳。小学生時代は、1年から6年までラグビーに打ち込んだ。中学校では卓球部に所属。美術好きだった臼井さんは、その後、京都で有名な美術系の公立高校へ進学して彫刻の勉強をした。
 その高校を卒業すると、自分でお金を貯めて上京。東京芸術大学を目指して予備校へ通った。
 「学費も生活費も全部自分でアルバイトして作りましたよ。でもね、予備校の近くにヨネクラジムがあって・・・」
 臼井さんは20歳の時にヨネクラジムに入門。「東京芸大入学の方は挫折しちゃいました。ハハハ」ここから臼井さんのボクシング人生がスタートしたのだ。

 そして、ボクシング人生の翌年にスタートしたのが結婚生活だった。「え〜?僕と同じじゃないですか!」私も21歳の時に結婚し、ボクシング人生のほとんどを妻と共に歩んで来たので、臼井さんにとても親近感を感じた。
 「同じ高校出身でね、2、3年つき合ってからだから、もう20年近くなりますよ・・・」奥さんは臼井さんの試合を全て見ているそうだ。時にはセコンドのイス上げを手伝ったこともあるという。
 「ホントは連れて来ようと思ったんですけどね・・・」飲み会などは、ほとんど一緒に出席するらしいが、今回はちょっと遠慮したらしく、残念ながら奥さんにお会いすることは出来なかった。

 名伯楽の故・松本清司トレーナーの指導の下、ヨネクラジムでプロテストに合格した臼井さんは、一度大阪に戻り、1994年に塚原ジムからプロデビューした。新人王トーナメントに出場し、西日本新人王を獲得したが、東京でおこなわれた全日本新人王決勝では敗退してしまった。
 「やっぱり東京でなきゃ強くなれない」そう思った臼井さんは、再び上京してヨネクラジムに戻り、37歳の定年までプロ生活を送ったのだ。
 「最後は6連敗ですからね。ハハハ・・・」と謙遜する臼井さんだが、あのタイの名王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーションとの敵地での試合など、タフな試合を戦い抜いてきた。
 この試合では、レフェリーの指が目に入った挙句、カウントをとられて5回TKO負けという不運な試合だった。
 しかし、その後ウィラポンとは大変親しい間柄になったらしい。今年9月にパシフィコ横浜でおこなわれた3大世界戦の際には、タイ人選手に同行して来日したウィラポンと一緒に下北沢の街で飲み明かしたという。



 お酒の話で驚いたのは、臼井さんは子供の頃からアルコールと友達になったそうである。「居酒屋デビューは中学2年生の時でしたよ!」と、これはここだけの話にしておいて欲しい。
 「引退した今も青木ジムで汗を流しているのは、酒を美味く飲む為ですよ!」休みの前日はタップリ飲み、翌朝は濃い焼酎かテキーラ。「この時、大人を感じるんですよ〜」そして、サウナに行って汗を出してからまた酒・・・。
 「酒をやめないと死ぬよって言われても、飲みますね。長生きするつもりはありませんしね!」満面の笑みで言われると、「ああ、そうなんだ」と、つい納得してしまった。

 稼業として現役時代から続けている石職人の仕事は、かなり特殊な技術が必要らしく、「おそらく日本に200人いないでしょう。俺はその中でも10本の指に入ると思ってますよ!」と、臼井さんは誇らしげに語る。
 国会議事堂や高級マンションなどで使用する石の彫刻などを手掛けるらしい。

 そんな特殊技能の持ち主の臼井さんだが、意外にも「夢は漁師になること」だという。「今、カツオの一本釣りを勉強中なんです。四国へ行ってね・・・、高知でね、自分の島で自給自足で暮らすのが夢なんです・・・」

 それともう一つ。臼井さんには俳優という顔がる。
 「結構、出させてもらってるんですよ」これまで、「1ポンドの福音」、「内藤大輔物語」、「課長 島耕作」など、メジャーなドラマに出演している。
 「ボクシングと似ているところがあるんです。“スタート”が試合開始のゴングと似てるんですよ」臼井さんは真剣な目でそう語った。
「かみさんにはあんまり相手にされないんですけどね。俳優業をもっと充実させていきたいと思ってるんです」
 まさに“自由奔放”に人生を楽しむ男――臼井知史。
 「ま、奥さんの理解があってこそなんですけどね・・・」結構お茶目な笑い顔も見せてくれる。

 「俺、昭和46年生まれなんですけどね、同期の人間を集めて『46年会』っていうのをやってるんです」三谷大和ジム会長で元東洋太平洋スーパーフェザー級チャンピオンの三谷大和氏など、名前の挙がった何人かは、私も知っている元ボクサー達だった。
 「これからのボクシング界を作っていくのは、やっぱりキッズだと思うんですよね。だから、この『46年会』杯の“キッズボクシング”大会を開こうと思ってるんです」
 まだまだボクシングへの愛情も溢れているのが伝わってくる。
 「この『46年会』を募集していることと、“キッズボクシング”を推奨していきたいってことを一番アピールしておいて下さい!」

 最後まで満面の笑みを絶やさず、エネルギッシュに語ってくれた臼井知史さん、これからも“自由奔放”な人生を歩み続けて欲しい――。




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●新田 渉世 (にった しょうせい)
1967年生まれ。92年横浜国立大学卒業。96年東洋大平洋バンタム級タイトル獲得。97年引退。98年米国サンフランシスコへ移住し、『ワールドボクシング』誌にて「ショーセイのアメリカボクシングライフ」連載開始。99年『Talk is cheap』にて「戦士と語る」連載開始、同年ケンウッド入社。03年2月神奈川県川崎市に新田ボクシングジムをオープン、同年ワールドボクシングwebサイト上にて「新米ジム会長奮戦記」連載開始。

新田ボクシングジムHP
http://www.nittagym.com/

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