その34 古口ジム 北川 純選手


PHOTO BY 山口裕朗



 「“男気”って言葉が好きですね。前に働いていたパチンコ屋の主任が、下っ端の面倒をよく見てくれる人で、男として尊敬してました。あんな男に憧れますね・・・」浅黒く日焼けしたウェルター級は、男っぽく微笑んだ。

 前回の“戦士”長瀬慎哉選手(F赤羽)の紹介で、今月は元・日本ウェルター級ランカーの北川 純選手(古口)を訪ねた。
 F赤羽ジムへスパーリングの出稽古に訪れた際、長瀬選手と親しくなった北川選手は、以来“メル友”として仲良く?付き合うようになった。
 新井恵一(高崎)に敗れてランキング外に落ちてしまった北川選手だが、10月31日に再度新井に挑戦することが決まっており、ランキング内復帰を目指している。現在18戦13勝(9KO)5敗―。正念場とも言える大事な試合だ。

 古口ジムにお邪魔したのは今回が初めてだった。商店街の一角にあるビルの地下へ階段を下ってゆくと、宇野マネージャーが笑顔で出迎えてくれた。
 「最近改装したばかりなんですよ」―綺麗な内装と、拡張されたスペースが真新しいジムで、北川選手は黙々とシャドーをこなしていた。
 左右にスウィッチしながら、一発一発フォームを確認するように、力強くパンチを繰り出していた。北川 純とはこれが初対面だった。

 地下のジム入り口のガラス窓に、10月31日の試合ポスターが貼ってあった。『RUBBER MATCH(ラバーマッチ)』と銘打たれたこの興行は、北川 純と新井恵一の3度目のバトルという意味を表している。
 新井恵一との過去2度の対戦で、不本意な敗北を喫していた北川選手は、ランキング復帰を目指し、“3度目の正直”を体現すべく、黙々とトレーニングに励んでいた。
 宇野マネージャーのミット打ちでは、ディフェンスとコンビネーションの反復練習と、力強いパンチを一発一発丁寧に打ち込む練習を繰り返しおこなっていた。
 汗の量が増えてくると、ウェアを脱ぎ捨て上半身裸になった。筋骨隆々としたその上半身は浅黒く日焼けし、逞しさを一層引き立たせていた。重量級独特の迫力が魅力的だった。
 ミットやサンドバッグを打つ度に、筋骨隆々のウェルター級が、「エァッ、エァッ!」と叫び声を上げた。ミットは激しく軋(きし)み、サンドバッグは大きく揺れた。



 福島県で生まれ育ち、幼稚園時代から少林寺拳法に打ち込んで黒帯を取得した。中学、高校時代はサッカー部に所属して、毎日走り回るスポーツ少年だった。「全然活躍しなかったですけどね。俺はメチャメチャ普通の少年でした」練習後に入ったジム近くの中華料理屋で、ニラレバ炒めを頬張りながらウェルター級は笑った。
 「ボクシングなんか全然やるつもりはなかったんですけどね・・・、アマでやってた友達に無理やり誘われて、近くにあったいわき協栄ジムに入門したんです」そして、「いつの間にか」プロテストに合格し、「いつの間にか」デビュー戦をおこなっていた。

 福島の田舎では、スパーリング相手が不足していたこともあり、同じ協栄系列の古口ジムに度々練習に訪れて練習を補っていた。
昨年、正式に古口ジムに移籍し、パチンコ屋でアルバイトをしながら練習に励むようになった。「でもパチンコ屋のアルバイトは、重い玉の箱を運ばなくてはならないんで腰に負担がかかるんですよね」腰痛持ちになってしまった北川選手は、サウスポーにスイッチすることで、腰への負担を和らげるようになったというわけだ。

 北川選手の好きな言葉は“男気”―「子供の頃は“勇気”とか“努力”って言葉が好きだったんですけどね、パチンコ屋の主任の、“下っ端を面倒見る男らしい振る舞い”に触れてからは、やっぱり“男気”って言葉が一番好きになりました」27歳の脂が乗ったウェルター級は、男っぽく微笑んだ。
 
 そんな筋骨隆々の浅黒く日焼けした北川選手だが、「結構“オタク”で“秋葉系”なんです」と、また男っぽく微笑んだ。
 「休日は“マン喫(初めて聞いた言葉だが、マンガ喫茶の略語らしい)”で、パソコンに向かい、2チャンネルに書込みをしていることが多いんです。自称オタクボクサーです」男っぽい笑いがミスマッチなところも魅力?のひとつだ。

 そんなウェルター級を支える4歳年下の彼女のことに話が及んだ。「初めは東京と福島の間で遠距離恋愛だったんですけどね、今は東京に住んでます。もう5年の付き合いですね」この日一番熱心に話をしてくれたのは、この彼女のことだった。
 「聞いて下さいよ。あいつは丸っきり“ボクサーの彼女”って意識が無いんですよ。あんなにボクサーをサポートしない彼女はいません。ここは是非書いといて下さい!」そう言って悪態を見せた北川選手だったが、遠距離恋愛を経て5年も付き合っているのだ。こっちは逆に強い絆を感じただけだった。「ごちそうさまでした・・・」

 「何でもいいからタイトルを取りたいです。名前が残るのはやっぱりタイトルです。ボクシングをやった証を残したいです」ボクサーとしての目標を、北川選手はそんな風に語った。
引退後はボクシングには関わらないつもりだという。「ボクシングはなかなか稼げないですからね」そう言いつつも、男っぽい微笑みを浮かべるこの男、まだまだ何かやってくれそうな、そんな期待を抱かせてくれた。




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●新田 渉世 (にった しょうせい)
1967年生まれ。92年横浜国立大学卒業。96年東洋大平洋バンタム級タイトル獲得。97年引退。98年米国サンフランシスコへ移住し、『ワールドボクシング』誌にて「ショーセイのアメリカボクシングライフ」連載開始。99年『Talk is cheap』にて「戦士と語る」連載開始、同年ケンウッド入社。03年2月神奈川県川崎市に新田ボクシングジムをオープン、同年ワールドボクシングwebサイト上にて「新米ジム会長奮戦記」連載開始。04年東日本プロボクシング協会書記担当理事に就任。

新田ボクシングジムHP
http://www.nittagym.com/

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