決断

7月の猛暑の中、いつも通り、私はF・Iジムに向かう。このジムとの付き合いも5年目になる。

ジムのドアを開けると、いつも通り福田洋二会長の声が響き渡っていた。蒸し暑いジムの中で、練習生に目線を向ける。

かつて、具志堅用高、渡嘉敷勝男、竹原慎二、飯田覚士という歴代のチャンピオンと、苦楽を共にしてきた名トレーナーだ。おそらくボクシング界で、知らない人は誰一人としていないだろう。40年のトレーナー人生の中で、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた。会長から発せられる言葉からは、当時の苦労や喜びをリアルに感じ取ることが出来る。特に自らがトレーナーとして世界戦を経験した時の話しに私は釘付けになってしまった。

現在は、会長職に就いたこともあって、鬼トレーナーの面影は、薄れつつあるものの、ボクシングに対する情熱は、全く衰えていない。毎日、頭の中からボクシングが離れることはないだろう。

会長は何度となく言う。「俺は、ボクサーを育てるプロだ。生涯ボクシングを仕事にしていきたい、そんで、お前に世界チャンピオンが誕生するところを見せてやる。」その言葉は、私の心を強く打った。

ジム内の撮影を終えて、事務所に入り、休憩していると、会長は私にこう言った。「まだ正式に決まったわけではないが、山口伸一を世界4位とぶつけようと思っている。大きな賭けだが、俺は勝てると思うから試合を組むんだ。絶対に勝つ、俺が勝たせる。」その言葉に私は、一瞬、戸惑ってしまった。

山口伸一は、確かに抜群のセンスの持ち主で以前から注目されていたとはいえ、最近、日本、東洋にランクインしたばかり。今後の試合も日本の上位ランカーとの試合が濃厚だと思っていた。これは格上の相手との冒険マッチと言われてもしかたがない。しかし、会長の目線の先には、世界王者となった山口の姿がある。そう、勝つこと以外に選択肢はないのだ。

ジム開設から6年、始まって以来の大きな仕事になるのは間違いない。生え抜きの選手が、世界ランカーと対戦するのは当然初めてのことである。

この決断を山口に伝えると、「やらせてください」と即答したという。その返事に会長はとても喜び、「伸一は気持ちが強い、そこがいいんだよ、その想いに絶対に応える」と言った。

かつて、自身が育て上げた王者と山口の姿が重なって見えているのだろうか。

「リングの上で手を挙げさせるから見てろ」その言葉に私は静かに頷いた。

会長と山口のその夢が現実になる瞬間に私は、立ち会うつもりだ。

後日、興行の日程が正式に決定した。詳細は以下の通り。

2007年9月24日 後楽園ホール

WBA ライトフライ4位    日本ライトフライ12位
フレディ・ベレーニョ × 山口伸一

勝負は始まった



中西祐介プロフィール

1979年 東京生まれ

東京工芸大学 芸術学部 写真学科 卒業

講談社写真部 勤務を経て、現在、アフロスポーツに所属。

ボクシングをはじめとするスポーツ現場から人物ポートレートまで、幅広く活動中。

同時にF・Iボクシングジムのオフィシャルカメラを担当。


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