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辰吉選手が5年ぶりにタイでカンバックを成し遂げた。しかし、試合前にJBCからチュワタナジムのアンモ会長に試合禁止の要請があった。
このニュースを聞いた時、JBCはなんの権限があってそんな事をするのか?と、憤りを持って思った。
私の何人かの知り合いからもそんな問い合わせがあった。
別に確証も無く、辰吉選手が所属する大阪帝拳ジムから辰吉選手本人の健康を考えての圧力だろう、と答えたが、もし本当にそうだとしたらまったくのお門違いだ。
世間を騒がせた元世界チャンピオンの渡辺二郎容疑者を輩出した大阪帝拳ジムは、選手の健康云々より、ボクサーの風紀の乱れや引退後の生活指導等にこそ反省を持った発言をすべきではないのだろうか。
そして今回JBCは試合を強行したチュワタナジムのアンモ会長に対し、今後チュワタナジムの選手の日本での試合を禁止すると言う恫喝をかけて来た。
日本での試合にその生活が懸かっているチュワタナジムのボクサー達にとってそれは死活問題であり、彼らの生活の種を奪おうとするJBCに対し、私は激しい怒りを感じた。
日本と違い会長とボクサー達がジムに寝泊りし一緒に食事をする間柄であるタイでは、会長とボクサーは家族も同然だ。
今から8年前、ボクシング無しでは生きられないと思い詰め、タイに渡りチュワタナジムに辿り着いた私をアンモ会長は温かく迎え入れてくれ、世界ランカーとの試合やPABAタイトルマッチと大きなチャンスを与え続けてくれた。
アンモ会長は私にとって命の恩人に等しい。そんなアンモ会長率いるチュワタナジムこそ、辰吉丈一郎終焉の場所に相応しいと思っていた。
辰吉選手に試合をやらせてあげたいと願うアンモ会長だが、チュワタナジムのボクサー達の生活を守らなければならず、JBCの恫喝に屈しなければならなかった・・・・・・。
日本ボクシング界最大の功労者である辰吉選手をボクシング界から抹殺し、ボクシングファンの願いも完全に無視したJBCの暴挙は許されるべきではなく、ボクシングファンは怒りを持ってJBCに抗議すべきだ。
日本のボクシング界を支え続けて来た男をボクシング界が抹殺するという今回の悲劇を見て、私には辰吉選手が幕末の志士、吉田松陰に思えた。
鎖国の時代、当時外国への渡航が幕府により強く禁止されていたが、日本を外国からの侵略から守る為、敵情の視察が重要だと悟った松陰は下田でアメリカの艦船に単独乗り込むが、密航は失敗に終わり潔く自首し獄中に入れられる。
罪人の烙印を押される事を知りながら、祖国を思い自分の意志を貫き通した松陰は自らの想いをこう歌った。
かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂
一年後出獄した松陰は松下村塾を開き武士、商人の身分に関係無く若者達を受け入れ学問だけではなく、農作業にも従事しながら共に汗をかき、理屈だけの学者にならず行動も伴わなければならないと教え、今後の日本の生き筋を熱く説いた。
その後安政の大獄により老中暗殺を企てたとして再び幕府に捕らえられ、そして処刑されていった・・・・・。
松陰を処刑した事は幕府の狭量さを表し、松下村塾の塾生である高杉晋作や伊藤博文、山県有朋といった松陰の遺志を継ぐ志士達により幕府滅亡を加速させ、江戸幕府最大の汚点ともなった。
近年の日本ボクシング界を牽引して来た最大のカリスマである辰吉丈一郎をボクシング界が抹殺するような事をしたら、ボクシングファンの支持を失い、日本ボクシング界は衰退への道を突き進む事になりはしないだろうか・・・・・・。
獄中で松陰は処刑される前に辞世の句をこう読んだ。
親思う心に勝る親心 今日の訪れなんと聞くらん
子が親を思う心よりも親が子を思う心の方が強い、だからこそ自分が処刑されたと知ったら、親はどれだけ悲しむだろうか、と・・・・・・。
辰吉選手と亡き父粂二氏との親子関係はあまりにも濃密だ。
粂二氏は世界チャンピオンに成りうる強い男を作る為だけに自らの体を鍛え続け、そして待望の元気な男の子をその手に抱いた。
そしてその子の名前は「あしたのジョー」の矢吹丈から取って丈一郎とした。
名は体を表すというが、辰吉丈一郎は矢吹丈のように真っ白な灰になるまで闘う運命なのかも知れない・・・・・。
その後離婚した粂二氏は男手一つで一人息子を育て上げる。
その間貧しい境遇の中息子を世界チャンピオンにする一念でボクシングの練習に明け暮れた。
そして父親の人生を賭けた願いをその息子は叶えた。
その後人々の記憶に残る数々の激闘を終えその時代に幕を下ろすかと思われたが、再び世界のベルトを取り戻す事を亡き父の墓前で辰吉選手は固く誓った。
愛すべき亡き父との誓いを果たそうとする辰吉選手の熱い想いを、いかなる理由があろうとも阻止する権利は誰にもない。
もしあるとしたら、それはるみ夫人だけが持っている。
第三者がいくら辰吉選手の体が心配だとは言っても所詮は他人でしかなく、辰吉選手が後遺症で苦しむ事態になったとしてもその世話をするのはるみ夫人しかいない。
そのるみ夫人が覚悟を決めたのならば、一体誰が意見できようか・・・・・・。
亡き父粂二氏と辰吉選手、そしてその息子達を繋ぐ親子関係の縦軸と、いまだ見果てぬ夢を追い続ける夫を見守る妻との夫婦関係の横軸が交錯し、壮大な辰吉丈一郎物語を紡ぎ出している。
この日本ボクシング界最大の大河ロマンのエンディングを決める事が出来るのは、JBCなんかではなく、辰吉丈一郎本人でなければ、ならないはずだ・・・・・・。
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