負の連鎖

 開いた口が塞がらないとはこの事だろう。

 先日行われた亀田選手の試合がそれだ。

 先ず毎度の事だがノンタイトル戦なのになぜ国歌斉唱をする必要があるのか?

 日本国内においては日本タイトルマッチはもちろんの事、東洋タイトルでさえ国歌斉唱は行われないのが慣例のはずだが、こと亀田選手の試合に関しては無理矢理とも思えるほど国歌を斉唱させる。

 私がタイのリングで「君が代」を聞いた時、人生で二度と味わう事も無い程の感動に包まれた。

 この感動を東洋タイトルや日本タイトルに臨むボクサー達にも味わってもらいたいと、ずっと思っていたがボクシング協会やコミッショナーは時間の無駄か経費がかさむとでも思っているのか世界戦以外では国歌斉唱は行われない。

 それがなぜに亀田選手の試合では何のタイトルも懸かっていないのに必ず国歌斉唱を行うのか?

 テレビの前の一般の視聴者は国歌斉唱が行われているこの試合を世界戦だと思うはずだ。

 あんな低レベルでダーティーな試合を一般の人達に世界戦だと思わせる小ざかしいトリックの片棒を担いでいるという事を、ボクシング界の人達はわかっているのだろうか?

 テレビ局の意向ならなんでもその言いなりだとしたらあまりにも情けない話しだ。

 しかし今回のマッチメークを見て亀田選手陣営はポンサクレック選手と本当にやる気があるのか疑問に思えてくる。

 ポンサクレック選手はサウスポーだが今回の相手は右だった。少しでもスピードのあるサウスポーに慣れるべきだが、テレビ局側が一般の視聴者をあざむく為にとにかくなんでもいいからチャンピオンと名の付く相手を探し出して来たとしか思えない。

 しかもご丁寧に1階級下のクラスだ。ボクシングでは1階級下の選手が上のクラスの選手に勝つのは至難の技だが、そんな事は一般の視聴者にはわかるはずもない。
 
 
 それとは別に以前から気になっていたが亀田選手がポンサクレック選手の事を略して「ポンサク」と呼んでいるが、もし対戦相手が亀田選手の事を「亀」と略して呼んだら激怒するはずだ。作られたチャンピオンではなく連続防衛記録を更新中の真のチャンピオンに対して実に礼を失した物言いだがその事を注意するまともな大人は周りにはいないようだ。

 しかもあろうことかマスコミ関係者までもが「ポンサク」と略して記事にしているが、それは真の世界チャンピオンに対して敬意を持ち合わせていない事の表明だと言う事に気が付くべきだ。

 
 試合のゴングが鳴ると同時に亀田選手は相手選手に走って向かって行きいきなりパンチを放ったが、1ラウンドの最初にお互いのグローブを合わせお互いの健闘を誓い合うのが万国共通のボクサーとして、そして男としてのルールではなかったのか?

 更に辰吉選手ばりのパフォーマンスをやり出す。辰吉選手の場合は観客のボルテージを更に上げる為にタイミングを計ってやっていたが、亀田選手の場合は最初からすぐやると決めているからタイミングの合わない唐突さでまったく観客のボルテージを上げていず、形だけの文字通りの猿まねでしかない。

 しかし、その後の尻だけを相手に向けるその行為は近代ボクシング100年の歴史において最も愚劣な行為だった。世界中を見回してもあのような馬鹿げた行為は初めてだろう。

 唾棄すげきあの行為が日本のリングで行われた事に対して、ボクシング界に生きる人達は怒りを持って抗議すべきだが、長い物に巻かれきった人達は残念ながらそんな感性を持ち合わせてはいないようだ。

 
 3ラウンド1分14秒、亀田選手は肘を相手の喉に突き上げているがこれも非常に汚い反則だ。更にこのラウンドボウチャン戦と同じ露骨なローブローを3連発したがレフリーはまったく注意しない。

 4ラウンドには散々自分からローブローを放ちながら相手のわずかなローブローを露骨にアピールする姑息さだ。

 その上5ラウンド1分53秒に亀田選手が放ったパンチは未熟な為に当たらなかったが、明らかに故意に狙った非常に悪質な肘打ちだった。

 6ラウンドにはこれまた自分から散々頭を相手に当てておきながら相手のバッティングを大げさにレフリーにアピールする勘違いさだ。

 そしてこのラウンド、レフリーはダウンと取るがまともなパンチは一発も当たっておらず相手を両方のグローブでロープの外に押し倒しただけだ。更にリングに尻もちを着いてる無抵抗な相手にパンチを放った。この行為も明らかに悪質な反則だがレフリーは例によって注意すらしない。

 更にこのラウンド1分18秒、あろうことか亀田選手が相手の左の肩口を思いっ切り噛んでいる。最初目を疑ったがビデオで何度見ても間違いなく故意に噛み付いている。

 噛み付き事件といえばタイソンがホリフィールドにやったのが有名だが、あの時はタイソンが負ける事への恐怖心にかられ発作的にやった事だと思うが、亀田選手の場合は1階級下の格下の相手に負ける要素はほとんど無く、なぜこのような馬鹿げた行為をやったのかまったく理解出来ない。

 7ラウンドには相手選手の太ももの横をクリンチの際何度も殴っているがこれも非常に悪質な反則だ。

 ベルトラインより下の太ももを守る技術をボクサーは持ち合わせてはいない。そこをあえて殴る亀田選手の行為は反則を超えた卑劣な行為でしかない。

 しかもこのレフリーは執拗に繰り返される亀田選手の悪質なローブローを注意せず相手選手の頭の低さを注意するとはあきれて物が言えない。

 更に試合は8ラウンドに進むがどう少なく見積もっても20回以上はローブローを放った亀田選手に対して初めてレフリーが注意をしたがもちろん取るべき減点も取らない。

 そしてナックルパートは相手選手のどこにも当たらずただ引き倒しただけでこのレフリーはダウンを宣告した。

 そして亀田選手がロープに相手を力ずくで押し込み連打を放つが、レフリーが試合をストップするきっかけになったパンチはナックルパートはまったく相手に当たってはおらず、グローブの平で力まかせに押し倒そうとした実に姑息な手だが、それを見極める目を持たないこのレフリーは相手選手がまだやる気なのに試合を無理矢理ストップした。

 この関西のレフリーは大阪府立体育館第二競技場の500人程の観客を相手にしているのと同じ感覚で全国に生中継されているこの試合を裁いてしまったが、それはあまりにも軽率に過ぎた。

 私は今回の亀田選手の対戦相手オガー選手の国インドネシアで試合をした事があるが、まったく公平なレフリングだった。タイやメキシコでも数多くの試合を観戦してきたが、これ程ひどいレフリングの試合を見た事はない。

 リングの上を無法地帯にする為にレフリーが存在する訳ではない。

 日本はいつからボクシング後進国に成り下がったのか?
 

 
 しかし確実に判定まで行く試合をその職業に対するプライドの無いレフリーによってTKO勝ちにしてもらった亀田選手がコーナーポストに駆け上がり絶叫する姿は、成人式で馬鹿騒ぎをする子供達とまったく同じメンタリティーだった。

 
 解説陣も鬼塚勝也、佐藤修の元協栄ジムOBだけで固められ、試合中は歯の浮くような亀田選手絶賛の嵐で試合後は今後の課題すら口に出来ない硬直さだ。

 ゲストの赤井英和氏が「もう少し見たかった」と本音を語ればすかさずアナウンサーが「選手の安全の為にストップが早くなっています」等と愚にもつかない言い訳をまくしたてる。

 本当に選手の安全を考えているのなら1階級下の相手をリングに上げる事の方がよっぽど危険だろう。

 しかもこの試合はレフリーがカウントも数えずいきなりストップしたのだからKOではなくTKOのはずだがアナウンサーは馬鹿の一つ覚えの様に「亀田選手のKO勝ちです!」と繰り返す姑息さだ。

 必要以上のバッシングを受ける亀田選手の事をかわいそうに思った事もあったが、今回の卑劣な反則行為のオンパレードにほとほと愛想が尽きた。

 試合後のインタビューでの無邪気さを装った笑顔にだまされてはならない。ボクシング関係者は今回の数々の悪質な反則行為に対してその真意を問いただし、今度やったらライセンスを剥奪するぐらいの警告を発すべきだ。

 「バレなければいい」「注意されなければいい」盗人と同じ自己本位の考え方を今こそ改めさせる時だ。

 兄がやる事は弟達だって間違いなくやる。これ以上ボクシングの品位と相手選手への尊厳を失っていいはずがない。

 このままでは「ボクシング」と言えば「亀田兄弟」と一般の人達に拭い切れない程の強烈なイメージを植えつけてしまう。

 そうなる前にここで負の連鎖をボクシング界は断ち切るべきだ。 
 
 「自由」の本当の意味も知らず大人になった気でいる子供に、社会の規律と厳しさを教えるのが大人の役目だろう。

 世間の大人が失った威厳と権威を、ボクシング界は今こそ取り戻さなくてはならないはずだ。 




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●池田高雄(いけだたかお)
昭和44年宮崎生まれ。平成元年プロデビュー。リングネームは憧れのボクサー高橋ナオト氏にあやかり池田タカオ。B級、A級各トーナメントを制し95年にクリス・サギドの持つ東洋タイトルに挑むも判定負け。同年引退。3年半後にメキシコに渡り紆余曲折を経て妻を連れタイへ。タカオ・チュワタナの名で1年間に9戦し、2001年空位のPABA王座を後のWBAスーパーバンタム級王者のソムサックと争い7ラウンドTKO負けを喫し完全引退。元日本、東洋、タイ、ともに1位。

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