パンドラの箱

 大橋ジムの大橋秀行会長が東日本ボクシング協会の会長に就任されマニュフェストを公開した。現役時代から戦国時代の軍記物を読むのが趣味だった大橋会長の事だから豊臣秀吉ばりの実行力で公約を実現してくれる事と思う。

 しかし、一つだけどうしても異を唱えたい事がある。

 それはK−1ファイターを初め他の格闘技の選手にも門戸を広げボクシングのルールでの試合を認めようという条項だ。

 この件に関して最も重要な事はボクシングサイドとK−1サイドのどちらがマッチメークの主導権を握るかと言う事だ。

 ボクシングサイドが大金を出してK−1選手をボクシングのリングに上げるはずもなく、K−1サイドがマッチメークするのは確実だろう。

 もし試合をするとなればリングに上がるのは重量級の選手になる。重量級は選手数が少ない為10戦やそこらで簡単に日本ランキングに入れる。中量級なら10戦と言えば6回戦あたりだ。と言う事は単純に考えて重量級の日本ランカーは中量級の6回戦レベルの実力だと言う事になる。

 その程度の実力のボクサーに日本ボクシング界の威信を賭けて闘わせていいはずがない。

 もちろん日本チャンピオンと言う名に相応しい実力を持ったボクサーは重量級にもいるが、K−1サイドはそんな危険なボクサーとは試合を組まないだろう。大穴チャンピオンやウェルター級より下のクラスのチャンピオンを無理矢理増量させて自分達に完全に有利な条件で試合を組んでくるはずだ。

 ラウンド数も5ラウンドあたりにしてくるだろう。鍛え上げられた他の格闘技の選手がガムシャラに前に出て来たら重量級の大穴チャンピオンや水増し増量した軽いクラスのチャンピオンではその攻撃をさばけない。

 かくしてボクシングの現役日本チャンピオンが他の格闘技の選手に完敗するという最悪の事態がボクシング界を襲う事となる。

 多感で純真な少年達がその光景を目の当たりにしたら雪崩を打って他の格闘技へ流れて行く事になるだろう。

 練習生全体の中で少年達が占める割合はわずかだから大した影響はない、と言う考えは浅はかに過ぎる。

 世界レベルの技巧を持ったボクサーはほとんどが幼少の頃からその小さな手にグローブをはめていた。

 辰吉選手しかり川島郭志氏しかり三谷大和氏しかり現役では西岡利晃選手と長谷川穂積選手がそうだ。

 百人の体力作りの会員よりたった一人の少年の方がボクシング界に与える影響は遥かに大きい。

 父親を筆頭とする亀田ファミリーの所業のお陰で練習生が減って来ていると何人かのボクシング関係者から耳にしたが、それ以上のダメージをボクシング界に撒き散らす事になる。
 
 一中小企業の個人経営者にすぎないボクシングジムの会長達はそんな大局を持たず、目の前に置かれた大金に飛びつくはずだ。例え自分のジムのボクサーにとって完全に不利な条件だろうが、ボクシングの権威を失墜させようがそんな事は関係ない。
 
 試合のオファーが来たボクサーも事の重大さを深く考えもせずに了承するだろう。
 
 ボクシングファンはその状況を指をくわえて見ているだけになる。

 大橋会長はボクシングマガジンのインタビュー記事で「開国しなければならない」と語っていたが、ボクシング界は開国すべきではない。

 その昔アメリカにより無理矢理開国させられた日本は生き残る為に世界中を相手に戦わねばならなくなり、最後は巨大な資本を持つアメリカの軍門に下った。

 改革の美名に踊らされて国民がこぞって小泉改革を支持し規制を緩和した結果、外資がドッと参入しその手法を真似た大規模なリストラが断行され大量のワーキングプアを生み出した挙句、中流家庭が崩壊しほとんどの人間が下流に流れ落ちた。

 資本力のある大企業だけが一人勝ちする格差社会の誕生だ。 

 ボクシング界の門戸を広げれば、ここぞとばかりにハゲタカの様な連中がボクシング界の残り少ないパイを礼儀知らずに汚く食い散らかして行くはずだ。

 
 二階級も下の名ばかりの世界ランカーに勝たせ、世界ランキングに入れないとなると抗議までして世界ランキングにねじ込ませ、その実力も実績もないのに世界戦を強行しようとする恥知らずな行為を黙認し、その地位を自ら貶める日本ボクシング界はこれ以上の愚行を犯すべきではない。

 他の格闘技の選手にボクサーがボクシングのルールで負けるような事態が発生したら、ボクシング人気は地に堕ちるだろう。

 それでも高校チャンピオンといった才能のあるボクサーをスカウト出来、テレビ局のバックアップもある大手のジムは安泰だろうが、地域に根ざして練習生の月謝を頼りにしているほとんどのボクシングジムには計り知れないダメージを負わせる事になる。

 ボクシング界もごく一部の勝ち組の大手ジム以外はほとんどが負け組みの格差時代へと突入する事になって行く。

 それが果たしてボクシング界全体の為にほんの少しでもプラスになるのか?

 
 他の格闘技の選手をボクシングのリングに上げてしまったら、それは決して開けてはならないパンドラの箱を開ける事になるだろう。




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●池田高雄(いけだたかお)
昭和44年宮崎生まれ。平成元年プロデビュー。リングネームは憧れのボクサー高橋ナオト氏にあやかり池田タカオ。B級、A級各トーナメントを制し95年にクリス・サギドの持つ東洋タイトルに挑むも判定負け。同年引退。3年半後にメキシコに渡り紆余曲折を経て妻を連れタイへ。タカオ・チュワタナの名で1年間に9戦し、2001年空位のPABA王座を後のWBAスーパーバンタム級王者のソムサックと争い7ラウンドTKO負けを喫し完全引退。元日本、東洋、タイ、ともに1位。

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