守るべきもの

 ここ数年年末恒例になった格闘技イベントだが私はこの状況に小首をかしげてしまう。

 一年で最も厳かに過ごすべき大晦日に、倒れた相手を失神するまで殴る蹴るの暴行を繰り返すシーンを家族で食事をしながら観ている図はどう考えても異常だ。

 私はそんなシーンを子供に見せない為に深夜に録画で見た。毎回思うが観客の熱狂ぶりと盛り上げ方はボクシングとはまったく異質だ。デカイ外国人同士を闘わせて熱狂するその姿は剣闘士達を死ぬまで闘わせ享楽の限りを尽くし、国にとって最も大事な国防を外国人まかせにして滅んでいった古代のローマ人を思わす。

 ここ数年常識では考えられない様な残酷な事件が次々と起こっているが、大晦日に残酷なショーをこぞって見ている日本人全体の精神が鈍化して来ているのではないのか。

 
 そして今回も元ボクサーがショーの生贄にされた。

 タイにいた時ムエタイの選手と軽いマスボクシングの様な物をした事があるが、太ももをピシッと軽く蹴られただけで痺れて動けなくなった。ボクサーの足はステップを刻む為にありキックに対する耐久力は普通の人と一緒だ。

 ボクサーがキックボクサーに勝つにはハメドの様に蹴りの届かない距離で動き回り一瞬のスキに飛び込み一発で倒すしかない。

 そんな動きが出来ないハメド以外の全てのボクサーが彼らに対抗するには一からキックの練習に取り組み年単位の期間が必要だ。

 主催者側の甘言に弄され、キックをカットする基本すら学ばずにリングに上がり無様な姿をさらす元チャンピオン達を今まで苦い思いで見て来た。

 毎回そうだがとっくに引退した元チャンピオンの彼らの肩書きに「元」という言葉をわざと付けない卑怯で姑息なK1サイドにボクシング界は断固抗議すべきだ。

 一般の人はとっくに引退し峠を過ぎた彼ら元チャンピオン達を現役のチャンピオンだと思っているだろう。

 強さの象徴であったボクシングのチャンピオンがキックボクサーにいいように蹴られまくられてリングにへたり込む姿を見た少年達が将来ボクサーに成りたいと思うだろうか?

 少子化が加速する今、ボクシングジムの門を叩く少年達の数はイヤでも減ってくる。その上格闘技が好きな闘争心あふれる少年達はそれだけでチャンピオンに成る素質があると言えるが、このままだとそんな希少なダイヤの原石達がキックの方に流れて行くのは自明の理だ。

 ボクシング界は元ボクサーが食い物にされるこの現状にもっと危機感を持つべきだ。

 
 無様な姿を晒し続ける元チャンピオン達にも言いたい。大観衆が見守る中リングに上がりたい気持ちはわかる。しかし彼らのリング上での表情や試合前の発言等を見ていると、吉田秀彦選手や秋山成勲選手達と比べあまりにも「覚悟」という物が感じられない。かつて自分達がボクシングに真剣に取り組んでいたように他の格闘技にも取り組むべきであり、それが他の格闘技に対する最低限の礼儀だろう。

 しかしリングの上で無様な姿を晒す度に自分達を育ててくれたボクシングに泥を塗ると言う事がわからないのだろうか・・・・・。

 チャンピオンの肩書きでリングに上がると言う事は、本人達が望む望まないにかかわらず「ボクシング」という重い看板を背負うという事だ。そこには「俺の自由」「俺の勝手」そんな軽々しい言葉が入り込む余地はまったくない。

 自分達がやっている事の愚かさにいい加減気が付くべきだ。

 
 しかし今回も元ボクサーを蹴り倒した魔裟斗選手だが、彼が以前からボクシングジムに通ってボクシングの技を習得している事は関係者の間ではよく知られた話だが、数多くのボクサー達がその身を削って築き上げたボクシングの技を盗むだけ盗みながら、公共の場でボクサーを見下した発言を繰り返す魔裟斗選手に対し私はひどい嫌悪感を覚える。

 「盗人猛々しい」とはまさにこの事だ。

 キックボクサーにボクシングの技術を教え、その技でロートルボクサーを餌食にしてキックの株を上げボクシングの株を落とすだけ落とす。こんな馬鹿げた事があっていいのか。
 
 パンチの重要さに気づきボクシングジムに通うキックの選手が増えて来ているが、ボクシング関係者は請われるままただ指導するだけではなく、ボクシングの奥深さを彼らに発言させるように持って行くべきだ。

 かつて初代のタイガーマスクで総合格闘家のはしりだった佐山聡氏が「格闘技の中で最も難しいのがボクシングだ」と堂々と発言した事があるが、そんな度量を持ち合わせていない今の格闘家達にはこちらから彼らに訴えて行くしかない。

 そうでもしないとこのままでは庇を貸して母屋を取られかねない。

 
 ボクシングには他の格闘技とは比ぶべくもない長い長い闘いの歴史がある。

 幾万の先人達がその身を削りその血を流して築き上げて来たボクシングの歴史と誇りを守る事こそが、ボクシングのお陰で熱い青春の炎を燃やす事の出来た我々に残された、使命ではないだろうか。






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05.06
守るべきもの
無 題
悲しき墓標
握り締められた拳
修羅の時
遠く熱い記憶
真実の瞬間
宿命
酒と泪と拳と友と・・・・・
罪と罰
闘いの終わり
十字架を背負った闘牛士
OUT BOX
再起

鎮魂歌
血の系譜
戦士の誇り
44歳の勝利
10年目の和解
鳥海VSクマントン
名古屋城、落城す。

●池田高雄(いけだたかお)
昭和44年宮崎生まれ。平成元年プロデビュー。リングネームは憧れのボクサー高橋ナオト氏にあやかり池田タカオ。B級、A級各トーナメントを制し95年にクリス・サギドの持つ東洋タイトルに挑むも判定負け。同年引退。3年半後にメキシコに渡り紆余曲折を経て妻を連れタイへ。タカオ・チュワタナの名で1年間に9戦し、2001年空位のPABA王座を現WBAスーパーバンタム級王者のソムサックと争い7ラウンドTKO負けを喫し完全引退。元日本、東洋、タイ、ともに1位。

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