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「マイノリティーの拳」というボクシング・ノンフィクションが林壮一氏によって上梓された。
林氏は元々ワタナベジムに所属していたプロボクサーだった。プロテストにも合格して念願のデビュー戦が決まりかけた矢先に非情なアクシデントが林氏を襲った。
シャドーでジャブを出しただけでしゃがみ込んでしまう程の激痛が左肘を走る。
幾つかの病院をまわりあらゆる治療に専念する。そして「一向に治らない左肘を撫でながら、私は泣いた。バケツ二杯分くらいの涙を流した。どこかに神がいるのなら、この怪我を治してくれ!と叫んだ・・・・・・」
後に診断された疾患名は「左肘内側測副靭帯断裂」靭帯を断裂するという骨折よりも数倍やっかいな、そして肘を伸ばしてパンチを打たなければならないボクサーにとって致命傷とも言える怪我だった・・・・・。
そして林氏は失意のままジムを去った・・・・・・・。
その後週刊誌の記者となった林氏に転機が訪れる。あのマイク・タイソンが刑務所から出て4年ぶりの再起戦を行う事になり、その取材をする為にアメリカに行く事になったのだ。
ボクシングの本場アメリカのラスベガスでその熱気と興奮をじかに味わった林氏は感動で全身を震わす。
そして決意する。
「この地でもっと深くボクシングの世界を攻究したい。ボクシングに関する文章を書くのであれば、この国に来なければ何も始まらない」と。
そして翌年林氏はアメリカに渡った。
さらに27歳にしてネバダ州立大学のジャーナリズム学部の学生となる。
「起きている時間のほとんどを辞書をめくる事に費やす」というボクシングの練習よりも苦しい日々をおくった。
「いつか自分が納得のいくボクシング・ノンフィクションを書いてみせる!」との一念で苦難の日々を乗り換えた。
アメリカ西部のリノに住む林氏は3000キロ以上も離れた東部に住む元世界チャンピオンのアイラン・バークレーやホセ・トーレス、そしてティム・ウイザスプーン、更にテキサスに住むあの伝説の男ジョージ・フォアマンらとじっくりと時間をかけて親交を温めて行く。
リングの上で闘う事の出来なかった夫に、今度こそ思う存分闘かってもらいたい。そんな思いで苦しい家計からなんとか交通費や宿泊費を捻出する奥さんの愛情。
将来に対して疑念や焦りを感じクタクタになって帰宅した時に見る、愛すべき一人息子の純真な寝顔。
それら全てが遠い異国の地で一人闘う林氏を支えたに違いない。
そんな日々を積み重ね積み重ね10年の年月をかけて築き上げた本がこの「マイノリティーの拳」だ。
登場人物は全てアメリカの白人社会ではマイノリティーな存在である黒人ボクサーだ。
一時の栄光は手にしても彼らを食い物にする悪徳プロモーターや取り巻き連中によって引退後は不遇な日々を過ごす彼らを林氏は同じ目線で追う。
その視点はアメリカでは彼らと同じマイノリティーな存在に過ぎない日本人として同士のような思いがあったのだろうか。
そんな彼らの「拳」には栄光と挫折、歓喜と悲哀がぎっしりと詰まっている。
失意のどん底でグローブからペンに握り替えた林氏の拳によって書き上げられたこの「マイノリティーの拳」は、ズシリと重い。
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