真実の瞬間


 以前から亀田選手の世界戦の事を書く場合、題名だけは「真実の瞬間」と決めていた。

 亀田選手が勝てばボクシング界の不条理さを、負ければその実力の程を、それぞれ証明する真実が白日の下に晒されると確信していたからだ。

 期せずして今回の世界戦でその両方を日本中に知らしめる事となった。

 今回の試合1ラウンドにダウンを喫した亀田選手が最後までよく頑張ったとの声も聞かれるが、ランダエタ選手がわざと倒し切らずに判定まで持って行ったように私には見えた。

 普通ダウンを奪ったボクサーの拳には相手を倒した瞬間の感触が残っており、どうしてももう一度倒そうとダウンを奪った同じパンチを繰り返して打つものだ。

 しかしランダエタ選手は2ラウンド以降ダウンを奪った強い右フックをほとんど打たなかった。まさかあのパンチで拳を痛めるわけも無く、あえて危険なパンチを封印したとしか思えない。

 普通ならどんなボクサーでも2ラウンド目に仕留めようとするだろう。ましてや滅多にチャンスの回って来ない世界戦においてはなおさらだ。

 亀田選手の前進するパワーが無くなった中盤は手を伸ばしているだけの右ジャブと腰のまったく入っていない左ストレートでお茶を濁し続けた。

 11ラウンドに亀田選手が完全にグロッギー状態になったが、そこでも得意な右フックと左アッパーはほとんど打たず単調な軽いワンツーの連打だけだった。

 ランダエタ選手が殺傷本能に欠け本来KO勝ちを狙わない選手ならまだ納得も出来るが、試合前にVTRで流れていたアランブレット選手との試合では恐ろしいほどの詰めの鋭さを見せていたし、軽量級では驚異的な80%のKO率の高さも説明出来ない。

 おそらくランダエタ選手は亀田選手が王者の証明である防衛戦を行わずに返上するであろうこのタイトルの次の決定戦にすぐ出れるのだろう。

 試合前の控え室でのランダエタ選手の軽いスパーリングでもするかのような恐怖感の無い余裕の表情。そして試合後の「WBAには提訴はしない」の発言もこれで全て納得出来る。

 だがおそらく直接的にはランダエタ選手に「カメダを倒すな」との指示は出されていないだろう。
 
 しかしなぜ自分がいきなり1位にランクされ亀田選手との王座決定戦に出場する事になったのか。

 協会長とその息子による亀田選手への過剰なリップサービス。

 ボクシング界で長く生きていればそれらが意味する事ぐらいわかるだろう。

 これからも世界タイトルのチャンスが欲しいランダエタ選手はその声なき声に答えなければならなかったはずだ。

 家族の為に闘い続けなければならないランダエタ選手を自分の事しか考えずにボクシングをやっていた私に非難する権利は無い。
 
 
 そして今回私は採点をしながら試合を観た。地元の利も考慮して亀田選手にだいぶ甘く採点したつもりだがそれでも2ポイント、ランダエタ選手の勝ちだった。

 最低でもドローがいいとこで韓国人ジャッジの2ポイント差で亀田選手というのは非常に不可解であり最初から何らかの意図があったのでは?と疑わせる程のジャッジメントだった。特に4ラウンドと12ラウンドは明らかにランダエタ選手のポイントだと思うがこの韓国人ジャッジはあろうことか2つのラウンドとも亀田選手のポイントにしている。その真意を聞きたいぐらいだが、ボクシングのジャッジには判決を下す職業に就く人間に必要不可欠な説明責任という物が無い。

 試合後5,6人程の知り合いから連絡があった。「あの採点は正しいのか?」と。

 正しくないと答えると全員「やっぱりな」と納得していた。

 この「talk is cheap」にもわざわざ私あてに判定への疑問を投げかける熱心なメールが届いた。

 想像以上に多数の人達がこの採点に疑問を持っているようだ。

 このような「疑惑の判定」で世間が騒ぎ出すと毎度の事だが火消しの為に元世界チャンピオンや識者達が現行のボクシング界の採点基準の説明を始め、よって今のボクシング界の採点基準だと亀田選手の勝ちでもおかしくない。という論調が繰り返される。

 まったく辟易する。

 今回のジャッジを務めた人達に直接採点への疑問を投げかけたとしても同じ様な事を言うだろう。「あのラウンドは亀田選手がわずかだが相手より手数が多かった」「あのラウンドは亀田選手がわずかだが有効なクリーンヒットが多かった」よって亀田選手の勝ちでもおかしくない、と。

 ならばその人達に声を大にして問いたい。

 もしこの試合がランダエタの地元ベネズエラで行われていたとしたら、それでもあなた達は今回と全く同じ採点をするのか?と。

 亀田選手への声援はほとんど無くベネズエラ人の熱狂的なランダエタ選手への歓声を背にしてそれでも数多くのあの僅差のラウンドを亀田選手のポイントにするのか?と。

 
 「亀田選手のポイントにする」と厚顔無恥に答えたとしても私はその言葉を信じない。ならばなぜ世界中で汚い地元判定が頻発しているのか?

 もちろん確固とした信念と正義感を持つジャッジの人達もたくさんいるだろう。

 しかし「有効なクリーンヒット」や「手数の多さ」や「主導権支配」といった物よりも「観客の声援」それこそが最大の採点基準だと正直に認めるべきであり綺麗事はもうたくさんだ。

 ジャッジがつけるその1ポイントにはボクサーとその家族の一生を決めるぐらいの重さがある。 
 
 ジャッジの人達にはそんな自覚を持って、リングの上で人生を賭けて闘うボクサーと同じ様な気持ちで採点をしてもらいたいと切に願う。
 
 
 しかし今回のテレビ放送はひどかった。

 先ず「君が代」をあれだけふざけたアレンジをして公衆の面前で歌う事が許されるのか?

 それも何でも有りの亀田選手の世界戦に相応しいと言えばそれまでだが・・・・・。

 
 そしてCM後のスローVTRでは2ラウンド開始前に亀田選手のダウンシーンを出した以外は全て亀田選手のパンチが当たっているVTRシーンだけだった。

 明らかなランダエタ選手のラウンドの場合はご丁寧にスローVTRはカットしてコーナーでの亀田選手の表情や観客を映す姑息さだ。

 これを情報操作といわずして何と言う。

 「報道のTBS」の看板に偽り有りではないか。

 試合後TBSに判定への抗議等で6万件の苦情が寄せられたそうだが、公共性と公平性を全く欠きボクシングファンのみならず国民全体を馬鹿にした番組作り自体を批判すべきだった。

 
 番組自体もひどかったが元世界チャンピオン達の解説も同じぐらいひどかった。

 特に鬼塚勝也氏の亀田選手のパンチが当たる度に「ナイス!」と叫ぶその姿はいくら協栄ジムOBだとしても解説者とは名ばかりのただの「亀田応援団」としか見えなかった。

 しかし彼らは一体誰に向かって解説しているのか?

 彼らが現役時代に試合会場にわざわざ足を運んでくれたり、テレビの前で陰ながら応援してくれたボクシングファンにこそ語るべきではないのか?

 自分達を下から支えてくれたボクシングファンに真実を語らず、上の顔色ばかりをうかがった数多くの発言は彼らを支えてくれたボクシングファンへの裏切り行為だとなぜ気が付かないのか?

 ボクシング界で生きていれば言いたい事も言えないのはよくわかる。しかしそれでも節操が無さ過ぎた。リングの上では「世界一強い男」の称号をもらってもリングの外では自己保身しか考えていない普通の男だという事が証明されて本当に残念だった。

 それにも増して以前から黒い噂が囁かれる亀田選手を会社の顔であるCMに起用したり、自身が大臣を務める省庁のPR活動に利用したりした企業人や政治家の情報管理能力の欠如と危機意識の無さは、まるで今の日本の芯の無い政治と経済の象徴そのものではないか。

 こんな事では日本のボクシング界どころか日本自体が大丈夫なのか?と心配になってくる。

 
 今回の騒動を機にコミッショナーが現行のボクシング界の採点基準を一般の人達に説明を始めているが一体どれだけの人が心底納得するのだろうか?

 ボクシング人気低迷が以前から叫ばれ昨今の格闘技ブームの中ボクシング界が生き残る為「バスに乗り遅れるな」とばかりに他の格闘技を真似た派手な演出をすべきだとかスター選手を作るべきだとか中身の無い表面的な案が出されているが、そんな事よりも万人が納得する採点基準を作りそれを日本から世界のボクシング界へ訴えて行くべきだ。その為に使う金こそが生きた金の使い方だろう。

 どんなに僅差のラウンドでもどちらかに1ポイントをつけ、どんなにダメージのあるダウンを奪っても2ポイントしかもらえない現行のルールでは試合結果にひずみが出るのは当然だ。
 だいたいあれだけ至近距離で観ているジャッジがラウンドによってポイントが分かれるという事自体おかしいではないか。遠くから見ている観客にはどう見てもイーブンにしか思えないであろうラウンドを無理やり優劣をつける意味が一体どこにあるのか?
 
 ラウンド毎に差をつけないと引き分けの試合ばかりになる、と言うが果たしてそうだろうか?12ラウンドの長丁場では必ずと言っていいほどお互いにチャンスが訪れる。その一瞬のチャンスを逃さず確実に物にした方が勝者でいいではないか。結局そのチャンスを生かせず引き分けになったらなったでそれでいいのではないか?

 元ボクサーとしてその方がよっぽど納得出来る。

 世界のボクシングの統轄団体は、世界戦を認めてもらう為に団体に多額の金を払えるジムのボクサーが勝てる現行のルールを即刻改め、リングの上で命のやり取りをするボクサー達の為にこそのルールを作るべきではないのか。

 一般の人に理解されないルールにいつまでもしがみ付いていれば、世間のボクシング離れに拍車をかけるだけだ。

 ボクシングから大衆性を失った挙句残ったのは珍妙なルールだけ。そんな事になれば悲劇を超えた喜劇でしかない。

 ボクシングはあまりにも原始的であり生きる為に人間が本来持っている根源的な本能を刺激するシンプルさゆえに大衆から支持をされている。

 よってその判定は子供だろうがボクシングファンだろうが全ての人が納得出来るだけの簡単明瞭さが必要だ。
 
 私個人としては昔使われていた5点法でいいと思う。

 明らかにどちらかが優勢の場合にだけ5−4をつけ、ダウンを奪えば5−3、ダウンを二度奪えば5−2、ダウン三度以上で5−1。これでいいではないか。
 
 全ての人が納得でき共有出来るシンプルな採点基準。

 それこそがボクサーの誇りと名誉を守り、ボクシング界が生き残る道だと私は信じる。



■ 池田高雄拳跡集 ■ Back Number

最新の「池田高雄拳跡集」
06.07-2 真実の瞬間
06.07 宿命
06.06 酒と泪と拳と友と・・・・・
06.05 罪と罰
06.04 闘いの終わり
06.03-2 十字架を背負った闘牛士
06.03 OUT BOX
06.02 再起
06.01
05.12 鎮魂歌
05.11-3 血の系譜
05.11-2 戦士の誇り
05.11-1 44歳の勝利
05.10 10年目の和解
05.07 鳥海VSクマントン
05.06 名古屋城、落城す。

●池田高雄(いけだたかお)
昭和44年宮崎生まれ。平成元年プロデビュー。リングネームは憧れのボクサー高橋ナオト氏にあやかり池田タカオ。B級、A級各トーナメントを制し95年にクリス・サギドの持つ東洋タイトルに挑むも判定負け。同年引退。3年半後にメキシコに渡り紆余曲折を経て妻を連れタイへ。タカオ・チュワタナの名で1年間に9戦し、2001年空位のPABA王座を現WBAスーパーバンタム級王者のソムサックと争い7ラウンドTKO負けを喫し完全引退。元日本、東洋、タイ、ともに1位。

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