宿命


 亀田選手に関しての批判記事を書く事は精神衛生上あまり良くないので当分書くつもりはなかったが、先月のスポーツ新聞の記事を見て考えが変わった。

 その記事とはWBAの副会長で協会長の息子であるメンドーサJrが来日し、亀田選手が今度の試合で勝てば父親思いの亀田選手の為に父親用に世界チャンピオンのベルトを二つ進呈する。と発言したものだ。

 このバカげた発言を読み体が一気に熱くなった。

 もしオリンピックのIOCの副会長の地位にあたる人物がオリンピック開催前に開催国にわざわざ出向きその国の人気選手の名を上げ、「彼が金メダルを取ったら彼の父親の為に金メダルを二個あげよう」と発言したとしたら、間髪入れずに世界中から「金メダルを私物化するな!」と非難が巻き起こるはずだ。

 辞任を迫られてもおかしくないぐらいの失言だろう。

 しかしこの発言を日本では無批判にありがたく頂戴している始末だ・・・・・・。
 

 たとえ肉親とはいえ、リングの上で血の一滴も流していない人間に、ましてや神聖不可侵の存在であるはずのレフリーにまで暴言を吐く人物に、世界チャンピオンのベルトをくれてやるとは・・・・・・。

 私が以前いたメキシコやタイには日本人の世界チャンピオンより強いのでは?と思わせる程の実力を持った無名のボクサーが何人もいたが、彼らは世界に挑戦するどころか世界ランクにも入れずにそのボクシング人生を終えて行く。

 実力も実績もないのに金の力で楽々と世界に挑戦する日本のボクサーを彼らはどう思うだろうか?ましてや「孝行息子」の父親にもチャンピオンベルトをくれると知ったら・・・・・・。

 子供の頃から家族の為に働き続け、僅かな額のファイトマネーのそのほとんどを家族に仕送りをする彼らから見たら日本のボクサーの親孝行なんてママゴトにしか思えないだろう。

 世界のボクシング界は名も無き幾万のボクサー達のはかない夢と犠牲の上に成り立っている。

 ボクシング界の上にいる人達はそんな彼らに感謝の気持ちをほんの少しでも持っているのか?

 しかもメンドーサJrの発言はまだまだ続く。曰く「亀田選手はここ10年間で日本が生んだボクサーの中で最高の選手だ」曰く「マヨルガとメイウェザーを足して二で割ったような選手だ」

 ほめ殺しと見まがうようなこれらの発言は父親でもある協会長の代弁でもあると言ってるが、要するにWBAが組織ぐるみで亀田選手をバックアップしていると白状しているようなものではないか。

 WBAは世界の主要4団体の中で最も歴史と伝統のある団体だったはずだが、同じく世襲制に移ろうとしている二番目に古いWBCと一緒になって承認料欲しさに暫定王座やスーパーチャンピオン制度を作りチャンピオンベルトの大安売りを始めているが、亀田選手の父親にチャンピオンベルトをくれる暴挙に出たとしたら、その地位は完全に地に堕ちたと断言出来る。

 
 現在のボクシング界のルールは「リングジェネラルシップ」やら「主導権支配」といった何とでも理屈が付けられる非常にあいまいな言葉が採点基準になっているうえに、どんなに拮抗したラウンドでもどちらかの選手のポイントにしなければならない。

 露骨な地元判定を簡単に作れるボクシングの歴史始まって以来の最低の悪法だ。

 今度の試合は亀田選手が最後まで立っていたら、それだけでチャンピオンベルトが彼のその腰に巻かれる事になるかもしれない。

 それでもボクシングを知らない亀田ファンは無邪気に喜ぶだろうが普段ボクシングを見ない一般の人が露骨な地元判定を見て、ボクシングの事をどう思うだろうか・・・・・・。

 ここに来て具志堅用高氏の亀田選手と協栄ジムへの苦言が元で確執が起きている。具志堅氏の発言を何度も読んだがどうみても協栄ジムOBとしての愛のムチとしか思えず、謝罪を要求するとは本末転倒だろう。

 具志堅氏の様に誰もかなわない程の実績を持ちその上勇気と正義を持ち合わせている人物がボクシング界の中枢にいる事は真のボクシングファンにとっては一縷の望みでもある。

 しかし日本のボクシング界はとんでもない前例を作ってしまったな・・・・・とつくづく思う。

 それは、ただの一度も日本人と闘わずして日本代表として日の丸を掲げ世界戦を行うという事だ。

 どこの国に、どのスポーツに、自分の国の選手と一度も闘わずにその国の代表だと認められるなんて事があるだろうか?

 
 15年程前、亀田選手と同じジムで同じくWBAの王座決定戦で判定でチャンピオンになった鬼塚勝也氏に世間は「疑惑の判定だ」と非難していたが、私は「なぜ日本人が世界チャンピオンに成った事を素直に喜べないのか?」と一人憤っていた。

 なぜなら鬼塚氏は新人王獲得後、ノンタイトル戦ながら前東洋チャンピオンの杉辰也選手に7ラウンドTKO勝ちを納め、更に老獪な日本チャンピオン中島俊一選手を二度に渡り退けて、このクラス日本最強を証明してから世界に挑戦したからだ。

 日本を代表して闘った選手を応援するのは日本人としては当然の事だろう。

 しかし亀田選手は違う。試合相手を決めるのはボクサーではなくジム側なので、その事に関しては亀田選手には非は無いとも言える。しかし、かつて鬼塚氏が外国人ボクサーばかりの対戦が続いていた頃、試合後のリング上で「もっと強い相手とやりたい!」とジム側に直訴した事があった。

 あの時場内からは鬼塚ファンだけでなくボクシングファン全体から盛大な拍手が沸いたものだ。

 ひるがえって亀田選手の試合後のインタビューは分をわきまえないただの勘違いでしかなく、拍手をするのはボクシングファンではなく亀田ファンだけだ。

 
 しかし、ここまでにおいてボクシング業界から、以前あった「世界戦をやる者は必ず日本タイトルをとらねばならない」このルールを復活させようとの声は聞かれない。

 悪貨は良貨を駆逐するが如く、こんな外道なやり方を日本のボクシング界はこれからも認めて行く事になるのか・・・・・・・。

 
 しかし公共の場でまとまな敬語も使えず父親ばなれすらしていない子供に群がるあの大人達の醜悪さは一体なんなんだろうか。

 子供のしつけや教育よりも金儲けに価値を置いてきた誇りと威厳無き今の大人達の縮図のようではないか・・・・・・。

 
 本物と偽物の区別もつかずにブランド物に飛び付くが如く、マスコミに踊らされて亀田兄弟に飛び付く頭の軽い層と、亀田兄弟以外のボクサーにはほとんど興味を示さないボクシング無関心層によって支えられている今の亀田兄弟人気は砂上の楼閣でしかない。

 熱しやすく冷めやすいそんな連中が作った視聴率やチケットの売り上げに舞い上がっている人たちを見ていると、まるでバブル景気に沸いていた頃のあの頃の人達を見ているようだ。

 亀田兄弟という泡が消えて無くなった時、日本のボクシング界には一体何が残る事になるのだろうか・・・・・・・。
 

 今度の世界戦で以前私が予想した通り亀田選手が敗北したとしたら、その後の関心は一つしかない。

 それはリング上で涙を見せるかどうかという事だ。

 その試合に賭ける物が大きければ大きい程負けたショックも当然のように大きくなる。その時頭の中は真っ白になり呆然自失となる。あえて泣こうと思わない限り、リングの上では泣けないものだ。

 今までハッタリを通して来たボクサーはファンや周りの大人達の同情を買おうとして決して人前で涙を見せてはいけない。

 どうしても泣きたいのなら、誰もいないシャワー室で一人声を出して泣けばいい。

 負けた時にこそ今まで通して来たハッタリを同じ様に通さなくてはならない。

 それこそが亀田選手が亀田選手たるゆえんであり、今まで彼を支えてきた人気の原動力をこれからも持ち続ける為の唯一の道でもある。そして後に続く弟達のためにも負けた時にこそ堂々とハッタリを通すべきなのだ。

 19才の少年にはあまりにも大きい重責だろうが、それも亀田三兄弟の長男として生まれてきた彼の宿命とも言えるだろうか・・・・・。



■ 池田高雄拳跡集 ■ Back Number

最新の「池田高雄拳跡集」
06.07 宿命
06.06 酒と泪と拳と友と・・・・・
06.05 罪と罰
06.04 闘いの終わり
06.03-2 十字架を背負った闘牛士
06.03 OUT BOX
06.02 再起
06.01
05.12 鎮魂歌
05.11-3 血の系譜
05.11-2 戦士の誇り
05.11-1 44歳の勝利
05.10 10年目の和解
05.07 鳥海VSクマントン
05.06 名古屋城、落城す。

●池田高雄(いけだたかお)
昭和44年宮崎生まれ。平成元年プロデビュー。リングネームは憧れのボクサー高橋ナオト氏にあやかり池田タカオ。B級、A級各トーナメントを制し95年にクリス・サギドの持つ東洋タイトルに挑むも判定負け。同年引退。3年半後にメキシコに渡り紆余曲折を経て妻を連れタイへ。タカオ・チュワタナの名で1年間に9戦し、2001年空位のPABA王座を現WBAスーパーバンタム級王者のソムサックと争い7ラウンドTKO負けを喫し完全引退。元日本、東洋、タイ、ともに1位。

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