|
長かった安河内氏との対談。ダラダラ延ばしてラクしやがって、という批判にもめげず半年に渡って送り続けてきましたが、案外テープ起こしという作業は骨の折れる仕事だと気付いたことだけが、収穫でした。完全にあてがはずれたわけでございます。決してラクだったわけではありませんよ!
さて、安河内氏が、ボクシング界において一番、行政側にいる立場だとすれば、その対極に位置するのはファンの方々です。そこで新年一回目記念として、長年ボクシングを熱心に見続けた一ファンであり、良質なボクシングサイトを運営されているMAOMIE氏をお招きしました。
前回はどちらかというと、私が安河内氏を追及する側だったわけですが、ここでは攻守入れ替わり、ファンとして我々、業界に物申したいこと、など耳の痛いことをずばり言って頂きました。でも、こんなに真剣にボクシングを見てくれる方の存在、ありがたいことです。(林隆治)

「小学3年生の時、いっぱしの評論家だった」
(MAOMIE)
林 こんにちは。この対談は、この業界のいろいろな立場の人にお話を聞く、という趣旨で始めたのですが、前回がコミッションの安河内さんという一番行政サイドの方でしたので、今回はMAOMIEさんに、その正反対の、いわゆるユーザーサイドの代表として来て頂きました。
MAOMIE(以下・M) 代表というと恐れ多いので、一ボクシングファンという立場でお願いします。誰の許可を得て、代表を名乗っているんだ、と言われてしまいますから(笑)。
林 そうですね。ファンとしての貴重なご意見を伺いまして、それでその話を、また次回以降の対談に生かしていきたいと思っております。それにインターネットの話などもお聞きしたいので、宜しくお願いします。
M こちらこそ。
林 まずボクシングファンになったきっかけというのは、なんだったのでしょうか。
M 私の叔父がボクシングをやっておりまして、その影響ですね。と言っても、なにしろ昭和20年代の戦争が終わった直後のことらしいですから、私は叔父の戦っている姿を見たわけではありませんが。その叔父とテレビで一緒に見たり、会場に連れて行ってもらったりしたのがきっかけです。私が4歳か5歳くらいの頃の話です。もちろん、その時は誰が試合をしていたかなんて、意識して見ていませんでしたが。
林 ずいぶん古いんですね。長い間見ていて、印象に残った試合は何でしょうか。
M やはりファイティング原田さん対ジョフレなどは印象に残ってますね。それから小林弘さんと沼田義明さんの試合は、知り合いを東京駅に送ってから、冬なのに汗だくで大急ぎで帰宅し、テレビの中継に辛うじて間に合ったというので、記憶に強く残っています。
林 小林−沼田戦は日本人同士で行なわれた初めての世界戦ですね。
M そうですね、今はそんなのが乱発されていますけど、世界戦を日本人同士で争うというのは、よほどのことですよ。当時は両方の会長の舌戦が毎日、スポーツ新聞の一面を飾っていましたね。こういう煽り方は、プロなんですから、どんどんやるべきだと思います。
林 そうですね、新聞記者さんにも、ボクシング界はもっと行事がなければ記事にしようがないよ、と意見されます。では、MAOMIEさんが選手の名前とかを意識して見始めたのは、原田さんくらいから、ということですね?
M 原田・海老原・青木・関・・・そういう時代ですね。もう小学校3,4年の頃にはランドセルの中に“取材ノート”なんか入ってましたからね。いっぱしの評論家気取りでしたよ(笑)。

林 その頃から技術論とかも語っていたんですか?
M ええ、学校でも家の中でも、切れるパンチだの重いパンチだのと言っていましたねえ。生意気な子供でした(笑)。でも、そういう話が出来るようになると世界が広がるじゃないですか。よくインターネットで「ボクシングをやったこともない奴が、技術的なことを偉そうに言うな」なんて書いている人もいますが、私は逆じゃないかな、と思いますね。ただ単に熱狂して帰ってくるだけでは、ボクシング観戦の楽しみの10分の1にも届かないと思いますよ。例えば、技術的知識や過去の歴史を勉強したり、ルールブックを読んでルールを勉強すればボクシングに対する理解がより深まります。また,自分だけのダイヤモンドの原石を発掘して、その成長ぶりをチェックしたりするのも楽しみの一つですよね。チケットは高価ですが,そこまで楽しめば十分に元が取れて、お釣りが来ます。そうやって考えればいいんですよ。目指すのは「ボクシング観戦の達人」です(笑)。
「選手が一生懸命戦っている。
見ているほうも一生懸命見なくては」
(MAOMIE)
林 「こいつは上に行くな」と目を付けていた選手が、実際に上に行った例はありますか?
M 柴田国明さんです。柴田さんが日本ランキングに入るくらいから見ていましたけど、これは絶対に上に行くぞと。こういう予想が当たった時は、ボクシング観戦の醍醐味を感じますね。自分が投資して育てたような気分になっちゃう。
林 採点もしっかり付けながら、見るんですか?
M はい。選手が一生懸命戦っているわけですから、見ているほうも一生懸命見なくては、というのがあります。手作りの採点用紙を使い出したのが35年くらい前です。この用紙のフォーマットはだんだん進化して今の形になりました。そして、1ラウンド3分間に目の前で起きたことを自分の頭の中で整理し、そのポイントをインターバルの1分の間に、要領良くまとめるんです。試合が終わったら,採点表の一番下に感想を数行でまとめます。それでA4の1枚が完成です。
林 なるほど。
M この作業を長年続けていると、非常に良い頭の訓練になりますよ。意外な所でとても役に立っています。例えば部下の報告を受けて適確な指示を出すときや、会議で人の発言のポイントを要領よくまとめて意見を出すときなど、仕事に与える良い影響は絶大です。
林 (過去の採点表のファイルを見て)わー、これはすごいですね!審判の名前からその採点、試合のラウンド毎の経過が全部書いてあって、ボクシング界にとって貴重な資料になりますよ!見出しなんかも付けて、もうほとんど新聞記事ですね!
M そうなんです。自分が新聞記者になったつもりで後楽園に通っていますね。後楽園で試合がある日は、女房には『取材に行くぞ』と言って出かけます(笑)。今ではこの採点表をもとにして、試合内容と感想を記録した「熱戦譜」をサイト上で公表しています。
林 ボクシングの試合を見る上で、心がけていることはありますか?
M 競技としてのボクシングや選手に対する愛情ね。これを忘れてはいけないと思っています。選手のいいところを見よう、というのが最初にないと駄目ですよね。前よりこういうところがよくなったね、とか。そのためにも絶えず技術論を他の人々と戦わして、常に勉強していなくてはならない。だから皆さんにも、自分なりの技術論をお互い展開して、それをぶつけあえる場として、私のサイトの掲示板なんかも活用して頂きたいです。

林 なんだか、一ファンで終わって頂くのがもったいないですね。編集でもライターでも、なんでも出来ると思いますよ。本職では本も出版されているそうですし。
M はい。仕事をリタイヤしたら、物書きで食っていけたらいいなと思っています。憧れの印税生活ね(笑)。
林 TALK IS CHEAPでもぜひお願いします(笑)。インターネットでサイトを立ち上げたのは、どんな考えからですか?
M 職場にも友人にも、ボクシングを語れる仲間がいなかった、というのがきっかけですね。競技としてのボクシングが好きですが,それ以上にそこに関わる人間の生き様とか営みのようなものに非常に惹かれますね。そういうこともあって,インターネットを使って何か出来ないかと。それで2003年7月に「MAOMIEの拳闘天国」をスタートしました。私の掲示板は観戦歴の長い方から若い方まで幅広い層が集まりますので、お互いの考え方・感性をぶつけ合い、ともに磨く場にしてもらえれば最高ですね。
林 そうですね。普通の掲示板は、ともすれば誹謗中傷に発展したり、書き込む人がお互い好き放題言って終わってしまうパターンが多いわけですが、MAOMIEさんの掲示板は、皆が互いを尊重しあって、本当に稀なほど良質な議論が戦わされていますよね。これにはMAOMIEさんの人徳もあると思います。
M いえいえ、皆さんのお陰ですよ。幸い他の方への配慮をわきまえている方が集っており,管理人としては非常に楽をしています。サイトのコンセプトとしては、お互いがお互いを育てる、というようなことが出来ればいいなとは思っています。そしてただ自分たちが楽しむだけでなく、いずれはファンの意見をまとめ上げて、林さんのような業界の方に、提言できるような形に持っていければ最高ですね。
林 私も近いうち、業界有志とファン有志の集いみたいなものをセッティングしたいと思います。まずこの対談を世に出すのが、その第一歩ですね。では今からさっそく、業界へのご意見・ご提言をお伺いすることにしましょう。
(以下次号)
|