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その小林が5月17日、後楽園ホールでコブラ光一(角海老宝石)と8回戦を行った。これが二度目の対戦。コブラ光一がマングース鈴木というリングネームで青木ジムからリングに上がっていた昨年9月、小林が大差の判定で下している相手だった。
「倒せた試合だったのにとか、勝ったけどボロクソに言われた試合だったんで、倒してやろうとかいろいろ考えないようになってからでは、倒したいっていう気持ちがいちばん強いですね。それがマイナスに出なければいいんですけど(笑)」
試合の1か月前、小林はこう話していた。玉熊会長と有吉トレーナーが小林の課題として挙げているのが「詰めの甘さ」。タイでは「敵地だから判定までいったら勝てないぞ」と小林に声をかけていたという有吉トレーナーは、「タイでのKO勝ちが、いいきっかけになってくれればいいんだけどね」と期待していた。
1ラウンド中盤、動きの硬い小林はコブラの左フックをまともにもらい、足をぐらつかせる。2ラウンド開始早々にも、コブラのワンツーからの左フックで再び窮地に陥った小林。序盤はコブラが優勢に試合を進める。だが、3ラウンドからは小林がボディを中心に盛り返し始めた。その小林を前に、一歩も引かずに応戦するコブラ。試合はやがて、一進一退の様相を呈していく。4年近い間、勝つことができず、この試合を前にジムを移籍していた、後1か月で35歳になるコブラの気迫の方が、小林を上回っているようにも見えた。小林は、いいパンチを当ててもなかなか連打につなげられない。判定は2−1。手が上げられたのは、果たしてコブラの方だった。
「気持ちで負けてました。同じ相手とやるのはこれが初めてだったんですけど、油断があったかもしれないですね」
小林は試合後の控え室でこう話した。
コブラ戦から数日後の小林に話を聞く。
「KO狙いなんて、身のほど知らずでした(笑)。一度、勝ってるからって、やっぱり甘く見ていたのかもしれないですね」
翌日は、「これでボクシングができなくなるのかな」と落ち込んでいたという小林。だがその日、ジムの手伝いを頼まれて訪れたジムで、応援に来てくれていた練習生たちから、
「また観に行くからな」「またがんばってください」
などと、声をかけられたのだという。
「この前の試合は自分が全然、出せなかったんで。終わった瞬間、『最悪だ』って思いましたから。僕は勝った負けたにはあまり興味がないというか。応援に来てくれた人たちが面白かったとか、負けたけどよくがんばったとか、満足してくれてまた見たいって思って帰ってくれたかどうか。それがいちばん気になるんです」
コブラ戦にはジムの練習生やOBたち、前の職場、今の職場の友人たち、などなど150人近い人たちがチケットを買って、小林の応援に駆けつけていたのだという。
「僕の応援に来てくれる人たちは、僕がボクシングをやめても、僕のことを応援し続けてくれる人たちだと思ってるんで。まあ、俺たちくらいは応援してやらないと可哀想だからって、思ってるだけかもしれないですけど(笑)」
小林がボクシングを続けて来ることができた、今も続けている訳が、少しだけわかったような気がした。自分らしく、がんばっている姿、それを見てもらいたい。
実はコブラ戦の3週間前、小林は背中に肉離れを起こしていた。完治しないまま迎えた試合。だが、最後までそれを決して言い訳にはしなかった。
「自分を表現する手段として、ボクシングは自分に合っていたのかなとは思いますね」
小林は言う。
コブラ戦の前、何度か小林の練習を見せてもらった。ジムにしっくり来てるというか、馴染んでいるというのか、そんな姿が印象的だった。有吉トレーナーに言わせると「緊張感がないだろ?」となるのではあるが……。だが、「ショウセン(=小林)は、下手くそだからなぁ」という有吉トレーナーの言葉には、どこか愛情が感じられるのだ。事実、こう続けるのである。
「性格はいいし、練習はがんばってやるよ。がんばってる奴は、助けてやりたくなるんだよね」
自分を「いい加減」というボクサーの練習はしかし、実にハードな内容だった。試合の1か月前には6ラウンドのスパーリングの後、8ラウンドのマスボクシング、8ラウンドのミット打ちに、さらには30分間、休まずサンドバッグを叩き続けていた。そうしてようやく、都合3時間にも渡る練習を終える。聞けば、デビュー戦のときからこれまで、毎日の練習メニューや体重を、欠かさずノートに残しているのだという。それをコンディション調整の参考にしてきた。また以前、玉熊ジムの練習生だった某メーカーのスポーツサプリメント事業部のスタッフである女性から渡された減量メニューをもとに、栄養面やカロリーを考慮しながら、食事を採っているのだともいう。これが果たして、いい加減な男にできることだろうか。
「練習はきつくて当たり前だし、自分に必要だと思ってるからやってるだけで。食事にしても、きちんと意識するようになってからは、前より楽に動けるようになったからっていうだけなんで」
力みかえることはない。決していい加減なのでもない。そう、あくまでも自然体なのである。
そんな小林に聞いてみる。― ボクシングは生活の中心?
「いや、中心じゃないですね。生活の一部っていう感じですかね。お腹は空いてないけど、お昼になったし、なんとなくご飯を食べようかな、みたいな感じ。朝起きて走って、ご飯を食べて、仕事に行って、練習する時間が来たから、じゃあジムに行こうかなというか。生活の中にボクシングがあるという方が近いですね」
これでボクシングができなくなるのかなと思い込んでいたボクサーはこの6月26日、タイで再びリングに上がる。有吉トレーナーが試合を組んでくれたのだ。あれ?そういえばコブラ戦の前、こんなこと言ってなかったっけ?
「いつか、タイトルマッチをやりたいです」
タイで試合をやってみたいなぁとか、東京でボクシングをやってみたいなぁっていうのと、同じ感覚?と混ぜっ返すと「いえ、それだけははっきり心の中にあります」と、きっぱりと口にしていたはずですが?
「それは……試合の後はすっかり忘れてました。やっぱり僕、思いが強くないんですかねー?」
苦笑いしながら、小林は言った。
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