| 拳闘書感想譚 | ||
「ボクサーを犬は癒す。」 |
Text By 中津川 一路 |

エルトン・ジョンが結婚した。 「私は長い間、ドラッグ、アルコール、鬱病、自殺未遂などに彩られた野生生物のような生活をしてきた。しかし、そんな人間はもういない。今日では、私は幸せだ。『彼』は私の人生で最も重要な人だ。『彼』なしの人生は考えられない。」(ドイツ・ガラ誌) 人間は弱い。人を支えとして必要とし、愛する気持ちは、相手が誰でも変わらない。ブッシュを支持した某宗教原理主義者の人々にとっては、神を冒涜する輩だとしても、人生のパートナー契約は公に認められて行い、恋人ではなく、伴侶として、神の前に紹介したいのは当たり前だ。 タイトルに惹かれて、帯も中身も見ずに購入した。 購入してから、「あ・・」と思った。自分も偏見からは逃れられない人間で、こういう世界の話は避けてきた。ウォン・カーウェイは好きだが、「ブエノスアイレス」はまだ観ていないし、「きらきらひかる」の筒井道隆と豊川悦司のベッド・シーンでは眼鏡をはずした。 今回も失礼ながら、そういう描写は行を飛ばしてしまった。重要なキーワードがあったのかもしれないが、作者には申し訳ないが、読めませんでした。 この本はドクター×ボクサーシリーズの第4作。「ボクサーは犬になる」「ボクサーは犬を抱く」「ドクターは犬を愛す」そして「ボクサーは犬を癒す」タイトルの所以は、ドクター加藤と、ボクサー徹は犬を飼っているということから来ている。 橋口徹は才能あるボクサー。吃音があり、中学時代はイジメに遭っていた。高校を中退し、「清嶺ジム」でボクシングを始めて、才能を発揮する。彼を愛する外科医の加藤と同棲するようになる。西條東(やくざの息子である。)というライバルに負けて、新人王を逸するが、A級までランクを上げている。その東の試合で、対戦相手が事故で亡くなってしまう。それを一緒に観戦していた加藤は、徹にボクシングをやめることを迫る・・・東も心に傷を負い、それを立ち直らせようとする若頭がいたりして・・・ こういう世界のことをボーイズ・ラブというそうだ。 内容はやはり、イメージ通りに「兄貴!」という感じの、殴り殴られ、男同士の友情プラスαみたいな・・・・世界だった。男女間とはまた違った趣があるが、男女間の恋愛よりも、すがすがしいものを感じてしまったのは、なぜなのだろう。ともかく愛情がストレートなのだ。 ただ、自分たちの世界に閉じこもっているのか、と思えば、そうでもない。こういう偏見や自分たちが置かれている状況を理解している描写が、あちこちに出てくる。 清嶺ジムの会長、清水は加藤と徹の関係については快く思っていないが、徹のスポンサーとして期待しているから何も言わないところとか、加藤が病院で怪しまれているとか、彼らの社会からの視線というのは、想像以上に大変なものがあるのだろう。その上で、愛をまっとうさせるのは、よほどのエネルギーが必要になるに違いない。この小説がそんな彼らの癒しになれば、と作者のあとがきにある。 そして、作者はボクシングをよく知り、ボクサーの心理をけっこう理解している。ここまで、ボクシングをわかっている小説家の方が少ないくらいだ、と思う。ある程度、取材したり、練習したりしても、ボクサーを理解するのは難しいものだ。どうしても、既存の小説、映画、漫画からイメージが大きくなってしまう。 ダークな部分を強調しがちな、ボクシング小説が多い中、意外と「ストレート」なボクシング小説であることが、新鮮に思えた。 |