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長らく続けてきた安河内氏との対談も、いよいよ今月で最終回となります。(しかし本当に長かったなあ。一回の対談でここまで引っ張れるとは思ってもみなかった)最後のテーマは、昨年末、私が大騒ぎした不当判定問題についてです。私はあの件以来、ライフワークの一つとしてこの問題に真剣に取組んでいこう、と決心しており、その意気込みのもと安河内氏に鋭く迫ったわけです。ともすれば身内批判になりかねないだけに、最初は答えにくそうな(?)安河内氏でしたが、途中からはすっかり私のペースにはまって頂いて、有意義な熱い熱い、議論になったのであります。
最後にこの場をお借りして、安河内氏に御礼申し上げます。お忙しい中、私のような若輩に対して、四時間以上もの時間を費やしていただき、ありがとうございます。安河内氏が勇気を持って私の申し出を受諾していただいたおかげで、濃密な議論を交わすことができ、その結果、私はボクシングについて、もっともっと深く考えるきっかけを与えてもらいました。世間の皆様に私たちの対談を見てもらうことは、ボクシング界の明日のため、絶対にマイナスにはならない、と信じております。カメラマンの山口さんにも感謝です。本当にありがとうございました。(林隆治)
「地方の弊害は、東京で刈り取るべきだ」(林)
不当判定
林 では最後に、不当判定問題について話したいと思います。
安河内 ・・・。(目を閉じて黙ってしまう)
林 ちょっと目を開けてくださいよ!(笑)
安河内 昨日遅かったもので・・・つい眠気が・・・(笑)
林 この前の阿部の試合(注・九州での大之伸対阿部第一戦)でうちは大騒ぎしたわけですが、地方では、採点基準などという次元を超えたいわゆる「意図された採点」が、確実に存在すると私は思っているのです。
安河内 ・・・。(固まって動かない)
林 相づちもなしですか(笑)で、それをなくすためにはジャッジの処罰は絶対に欠かせないというのが、私の持論なのですが、何とか出来ないものでしょうか。
安河内 不当判定については、昨年のWBC総会の折に行なわれたOPBF会議で問題になりました。というのも、東洋太平洋タイトルマッチでは主催国有利の採点が出やすい傾向があると言われているからで、それに対する抑制をしていかなければ、ボクシングの信用に関わる、という話になったのです。その時に出た議論の一つに、おかしいと思われる採点をしたジャッジのブラックリストを作り、その人間が不合理な採点を繰り返すようなら次からジャッジとして指名しない、つまり使わないようにしたらどうか、という意見がありました。それからビデオでの試合の検討というものを本部でしっかりやり、その際、非常に偏った採点をしたと思われる人間に対しては指導していく、という議論もなされました。私から逆に伺いますが、林君は不当判定はなぜ起こると考えていますか?
林 私が見た範囲で感じたことですが、地方では、ボクシング共通のルールより、地元の仲間意識のルール、つまりムラの共同体の縛りのほうが強いのではないかと思います。簡単に言うと「なんで地元の選手を負けにするんだ、バカヤロ、村八分にしてやるぞ、コノヤロ」ということですね。もちろん昔ながらの閉鎖社会ですから、あからさまに言葉に出して言わないかもしれませんが、そういう空気は明らかにあると思う。
安河内 私はコミッションの人間として、誤解を招くような発言は差し控えなければなりませんが、もし本当に不当判定が存在するのならば、林君の言った仲間意識というものが大きく左右する可能性はあると思います。例えば東京では後楽園ホールという常設の会場があり、そこではある意味、淡々と試合を行なうことが出来ます。しかしご存知のように地方に行くと、試合のセッティングやら何から何まですなわち、リングの設営からそれこそイスの配置に至るまでの苦労が、主催ジムにはあるわけです。そういう主催者サイドの努力や苦労を、試合役員の人たちも目の当たりにして、ものすごく理解している部分があって、そういった地方興行の苦労というものを、無意識的に採点上に反映するということは、可能性としては、あくまで可能性としてはですが、あるかもしれない。
林 まったくその通りだと思います。
安河内 大之伸対阿部第一戦に関して言えば、チャンピオンが減量に苦しんでいる、ということは地元にいる人間にはよく分かっているわけですね。そうすると、チャンピオンが悪い動きをした時に、これは打たれて動きが悪いのか、それとも単にコンディションが良くないから動きが悪いのか、実際は分かりにくい、ということになる。確かにパンチのダメージによらないスローダウンを、採点に反映させるべきかどうかは、難しいところなのですが・・・。
林 要するに、コンディションが悪いのによくここまで立っていた、ということでチャンピオンに得点をあげていたと。私にはそうとしか考えられません。このラウンドは一方的に挑戦者に打たれたけど、よく耐えたから10−9でチャンピオンのラウンド(笑)そうとでも考えなければ、あの判定は出てきませんよ。でも、もし本気でそんなものを採点基準にしているのならば、それはもはやボクシングの採点ではありません。もちろん彼らが本気でそんな採点をしているわけはなくて、つまりは「意図された採点」なのだと私は思いますけどね。
安河内 あの試合に関しては、私たちコミッションも、皆でビデオを使って一ラウンドごと検証しました。その結果、ほとんどの人が阿部の明白な勝ちを支持した。そういうものを土台にした上で、今回初めてジャッジがサスペンドされるということが起きたわけです。これは不名誉なことではありますが、このことを私たちは意義のあるものにしていかなくてはならない。だから、林君が投げかけた問題意識というものは、本当に大きいものだったと思います。
「東西の交流をしていけば、かなり変わってくる」(安河内)
林 コミッションの大英断には感謝しています。サスペンドされたジャッジの方には気の毒なことをしたというか、犠牲になってもらった面がありますが。問題は、コミッションの各地方事務局が、独立自治体のようなものになっていることだと思います。しかし、本来あくまで本部は東京にあるはずなのですから、地方の弊害があるなら、東京の力で刈り取っていくしかないのではないでしょうか。悪い言葉でいえば「見せしめ」ですね。それをしないと通用しないと思います。その意味で、査問委員会というものをぜひ設置していただきたい。それがどうしても無理だというのなら、とりあえず立会人を東京から派遣する。なぜOPBFの問題が表面化したかといえば、たまたまWBCの審判たちがOPBFの採点のひどさを目の当たりにしたからだと聞いています。外部の目が入って、しっかり監査していますよという態勢をとるだけで、だいぶ違うと思います。要するに、ムラ意識とは違う権力構造でこれを壊していかなければ、永久に変わりませんよ。
安河内 林君の意見はもっともだと思います。あと付け加えるとすれば、役員会という組織の横のつながり、つまり東西の交流が、今まで希薄すぎたということでしょうか。交流していく中で、お互い研鑽し技術を高めていく、ということが少な過ぎたような気がします。もちろん財政的な理由などもあったのですが、しかしそれは世間には言い訳にしか聞こえないでしょう。でも、これからはもっと東西の交流をしていこう、いう意識が、東京の役員会の人たちを中心にだいぶ出てきました。東京の役員会に地方の審判部長を招くとか、あるいはその逆もありますね。またタイトルマッチなど大きな試合では、立会人が行かないにしても、ジャッジとして東京の審判部長を派遣する。そういう交流をしていけばかなり違ってくると思う。林君に今、独立自治体と皮肉を言われてしまいましたが、確かにそうなってはまずいわけです。
林 最後に私からの注文ですが、コミッションも身内を罰することをためらわないでもらいたいということですね。もちろん結果をひっくり返すことは絶対にやってはいけないことです。しかし、コミッションが間違いを認めない、処分も行なわれない、でも再戦はしろ、では筋が通りませんよ。それではボクサーサイドが一方的に不利益を被って、不当採点をするジャッジのやったもん勝ちになってしまいます。コミッションが一言「うちが間違っていました」と認めてくれれば、それだけで私たち業者もすっきりするんですよ。そのことでコミッションという組織が弱体化するとは思わない。むしろ自浄能力があることを世間にアピールすることが出来ると思いますよ。人間が行なうことなのだから、ミスがあって当然。だからこそ、その間違いを認める勇気を持っていただきたい。
安河内 今まではおそらく、ジャッジやレフェリーを処分することによって、結果に対する不信感を生んでしまうのではないか、という考えが、間違いを認めることを躊躇してきた要因になってきたのだと思います。ただ今回の九州の件でやったことは、長い目で見たときに、良かったと言われるようにしていかなくてはいけません。そうでないと、何のために一人のジャッジを犠牲にしてサスペンドしたのか、ということになってしまいますからね。
最後の最後が不当判定といういささか耳の痛いテーマで締めくくりとなったけど、本当にあっという間の4時間だったね。林君という優れた?論客を相手にどれほどのことをお伝えできたか心許ないけど、私自身とても勉強になりました。立場は違ってもボクシングの健全な発展を願う気持ちに相違はないことを改めて感じることが出来てとても有意義な時間でした。どうもありがとうございました。
(安河内編・完)
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