拳闘書感想譚
ラブ&コメディ&ボクシング
『KATSU!』あだち充 少年サンデー連載
Text By 中津川 一路


 継続は力なり。他人になんと言われようが続けることで、多くの人に認めさせることが出来る。引いては、それでなくてはだめだ、というところまで来ることさえ出来る。


 その日の少年サンデーを発売日前に手に入れたと、クラスメートが昼休みに溜まり場にしていた、柔道場に入ってきたことを覚えている。僕らはその少年サンデーを取り囲むようにして読んだ。
 その号で、上杉和也は試合に向かう途中、交通事故でこの世を去った。唐突な死だった。力石以来の名脇役の死と書いた評論家もいた。
 『タッチ』はあだち充氏の代表作のひとつだ。『みゆき』を同時期に連載し、漫画界にラブコメブームを起こしていた時期が、彼の全盛期と言っては失礼だろうか。彼は今でも第一線で活躍しているのだから。ただ、その全盛期に少年期を過ごした僕は、『タッチ』以降、あだち充の作品に目を通すことはなかった。


「里山活樹、15歳。光葉高校の一年生。ほんの勘違いで。親友の川上京太ともども水谷ボクシングジムに入会してしまった、あわて者。
 水谷香月、15歳。活樹の同級生。父親は水谷ボクシングジムの会長だが、現在は別居中。母親と二人暮しで、大のボクシング嫌い。
 つまり、活樹らは水谷家の事情を知らず、水谷香月に近づこうとして、水谷ボクシングジムに入ったわけ。活樹と香月・・・・字は違うけど、読み方は一緒。だからといってどうなるわけでもないのだが、今、里山一家が水谷母娘の店を訪れる!!(2巻頭あらすじ抜粋)」


 偶然の出会いと幼馴染、美少女と、スポーツ。ライバルと爽やかな恋愛。
 確立されたパターンを、素晴らしい画力とコマ割で、テンポ良く展開してゆく。
 『タッチ』もきちんとした野球漫画だったが、これもディテールのけっこうしっかりしたボクシング漫画だ。いや、ここまでしっかりと描かれたしたボクシング漫画も少ないくらい、の作品といって良い位のものだ。ボクサーたちのデッサンも、ジム内の描写も、そつがない。『タッチ』の上杉達也の最初はボクシング部だったし、あだち氏はボクシングに愛着も持っているのだろう。ボクシング華やかなりし頃に青春期を過ごしたということもあるかもしれない。
 強力なライバルが次々と登場するのは、『はじめの一歩』等と変わらないが、それらのような「熱血」のイメージは少ない。ストリートファイトのシーンもやたら多いのだが、血の臭いは薄い。密度の濃い効果線も、擬音文字も少ない。しかし、ボクサーの動きや視界を的確に表現しているのだから、その力量はやはり並ではない。
 ボクシングと恋のライバルとのソフトなコンタクト、次々に登場してくるライバルたち、父親の秘密。ああ、少年漫画と、ページをめくりながら、懐かしさに感動を覚えた。強面が極端に弱かったり、ベビーフェイスが強いのは、どうかと思うが、仕方ないだろう。

 実は自分の生家と、あだち充氏の実家は、ほど近い場所にある。
 彼の名が世に出た頃、「あだちさんとこの息子が出世した。」とお茶場の話題になったものだった。出身中学も一緒で、自分の周囲の風景が漫画の中によく登場し、それを妙に誇らしく思ったりしたことなど思い出した。今は、昔のように何度も読み返す根性はないが、『KATSU!』の中に自分の町を探してみようかな、と少し思う。

 まだ、あるだろうか。


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