「林隆治のこの人と真剣勝負!」第3回 (安河内編B)

ゲスト    安河内 剛氏

 (財団法人・日本ボクシングコミッション国際部長)

写真     山口裕朗氏

ホスト構成 林隆治







言い訳を先にしておきますが、この対談が行われたのは6月6日のことです。それから二ヶ月の間に、WBCの消滅危機や、日本のPABAへの加盟の可能性など、予想し得なかった、ボクシング界を揺るがす話題が突如として発生しました。この対談を小出しにすることによって楽をしようとしている私には、まことにタイミングが悪く困った事態なわけです。今回発表している部分が、なんだか重要な話題が抜け落ちていて、間の抜けた感じになっているなあ、と思われたとしても、それは私たちの責任ではありません。悪いのは、私の連載ペースに合わせてくれない時代の流れそのものです。

とにもかくにも、PABAに対して日本はどう対応していくのか。コミッション制度のあり方とは。そして、他の格闘技との関係は。タイトル認定問題について、安河内氏とたっぷり議論したのであります。(林隆治)


「将来的にはPABAを承認することもあるかもしれない」(安河内)


タイトル認定問題

林 私は以前にもこのホームページで書いたのですが、日本は、少なくともPABAには加盟すべきだと思っているのです。

安河内 それは、日本がWBC傘下のOPBFの方は認めているのにも関わらず、同じく日本が認定しているWBAの、その下部組織であるPABAを認めないのはおかしい、というのが、理由ですよね。

林 それが一番の理由ですね。

安河内 まずコミッション的立場で見解を述べさせてもらえば、(PABAの)OPBFとの地域的な重なりは、やはり一つの大きな問題として挙げざるを得ません。世界に関してはWBA、WBCの二団体を認定するという形になっていますけれども、これを東洋圏にまで持ち込んで良いのか。極めてシンプルに言えば、東洋で一番強い人間が二人いる、という状態を作ることが、ボクシング界の健全な発展にとって良いことなのか、ということですね。そのあたり、林君はどう思いますか?

林 日本人は確かにタイトルの権威は非常に大切にしますが、一方で、その権威が「一番強いこと」である、とは実は誰も思っていないというのも、確かだと思うんです。OPBFチャンピオンが東洋で一番強いとは多分、誰も思っていない。むしろ実力的にはPABAのチャンピオンの方が強くなってきていると言われていますよね。それにPABAは、外国ではOPBFより力を持っていて、すっかり定着してしまっていますよ。日本にいると、こういうことって分からないものですけど。

安河内 林君はおそらく西澤選手の世界戦でオーストラリアに行ったりした時に、そういうことを実感したのでしょうね。

林 そうですね。WBA総会に出席しても感じることですが、PABAの役員はWBAの中でも相当威張っていますよ。では同じように、OPBFがWBCの中で発言力を持っているのか、となると、それは非常に疑問ですね。日本人が思っている以上に、OPBFは世界の中で沈没しているし、PABAは台頭してきている。いや台頭という言葉はもう遅くて、すでに東洋圏のメジャータイトルになっていると思います。

安河内 ただ、OPBFが昔に比べて価値がなくなってきているから、だからPABAを認めようよ、という乱暴な議論が一部にあるようですが、それはちょっと賛同しかねますね。PABAも将来、OPBFと同じ問題を抱える可能性があるかもしれないですから。例えばPABAは30ヶ国の加盟をうたっていますが、実際、試合はタイ・インドネシアで60パーセント以上が行われていて、OPBFと同様の地域的な偏在が指摘されます。確かに現在は、PABAの王者はWBAのランキングでも優遇されるなどのメリットがありますが、やがてはOPBFと同じ道を辿ることもあり得る。そういう危機感もあるんですよ。

林 それはその通りですね。

安河内 ただ、さっき林君が言ったように、PABAは、タイ、インドネシアなどではメジャータイトルとして定着していますし、中央アジアの国々を多くその傘下にしており、OPBFと完全に地域が一致しているわけではないので、将来的なことを言えば、OPBFと並んでPABAを承認することもあるかもしれません。しかしコミッションとしては、タイトルの重みというものも考えざるを得ない。そうすると、現段階では時期尚早なのではないか、と。

林 コミッションの立場としては、そうでしょうね。

安河内 また、OPBFと日本との歴史的なつながりの深さというのも無視できないです。1954年にOPBFの前身である東洋ボクシング連盟(OBF)が発足したのですが、その立役者になったのが、ご存知のように日本だったわけです。日本、フィリピン、タイの三カ国で始まり、翌年には韓国が加わった。この四本の柱で東洋のボクシングの発展を支えてきたんです。1963年、WBCが発足した時には、OBFはその最高議決機関ということになり、その関係で、WBCとOPBFのつながりは深くなったのですが、1979年には、WBAもOPBFを実質的に認知することになった。それから、PABAが出来るまでの長きにわたって、こういう問題が起きずに来たわけです。こういう歴史的な経緯も、この問題を考える上で軽視できないのではないでしょうか。

林 なるほど。

安河内 あとPABAの成立の事情ですね。ご存知のように、PABAは韓国ボクシングコミッション(KBC)とは別の路線によって立ち上げられたもので、韓国では永らくPABAは認められなかった、という経緯があります。そして、現在のKBCは、WBAとの関係が極めて希薄になっています。

林 ということは、日本でも・・・。

安河内 そうなんです・・・。

林 PABAを支持する新しい団体が出来たら、今のJBCは対抗しようがない。

安河内 確かに「JBCが認めないのなら、我々がPABAを認めよう」というものが出てくる可能性がまったくないわけではない。そうなると、一国一コミッション制度という大きな秩序が、壊れることにもなりかねないわけです。だからと言って、何でもかんでもJBCが認定するわけにはいきませんし。もっともWBAとJBCの結びつきの強さを考えればJBCが認めない以上他団体にPABAを認定させることはあり得ない話でしょうが、理念的には考えられないこともない。

「アメリカのコミッションにとっては試合の管理が一番の使命。タイトルについては関心がない」(安河内)

林 私が「少なくとも」PABAには加盟すべし、と言ったのは、そこなんですよ。例えばIBFなんかは、とりあえずは今の日本にとっては無縁に近いわけです。だから、それを認めるという団体が出来ても、それは大した正当性は持ちにくい。実際、IBF日本には、ほとんどの日本人がついていかなかったわけですよね。しかし、PABAはWBAの正式な下部組織ですから。PABAを認めようという団体が出来た場合、それは、ものすごい正当性を持ってしまうことになる。そして、その団体がWBAのお墨付きを得た瞬間に、「新団体はWBA系、JBCはWBC系」と勝手に色分けされてしまう危険性があるわけです。コミッションがWBA、WBCという二大団体を軸にしていくつもりなら、PABAも認めるべきだと思いますよ。

安河内 現実問題としてあり得るかは別として理念的には林君の言うことはよく分かります。そして、この議論を突き詰めていくと、そもそもコミッションとは何なのか。コミッション制度の意義とは、という問題につながって来る気がします。

林 この前、安河内さんから聞いた、諸外国におけるコミッションの役割についての考え方、という話に、非常に感銘を受けたのですが、それを話してもらえますか。

安河内 はい。例えば、アメリカの州アスレチックコミッション(体育局)は、ボクシングだけでなくプロレス、キックボクシングなどのあらゆる格闘技を、法律やルールに基づいて統轄管理しているのですが、彼らにとっては、試合にどのタイトルが懸かっているか、ということは実はあまり意味がない。どんな試合であれ、無許可の試合をさせない、というのが彼らの大きな使命なんです。というのは、ボクシングやその他の格闘技というのは、他のスポーツと違って、非常に苛烈なものですから、暴力行為との境界があいまいで難しい。そして、そういうものは容易に地下に潜って賭けの対象となる。だからそうならないように、中立公平の第三者機関に運営を委ね、法律で縛りをかけるという発想が生まれた。アスレチックコミッションは、法律やルールに基づいてボクシングを統轄管理しているのですから、無許可の試合だけは絶対に許してはいけない。プロボクシング試合を標榜するものに関しては、必ず私たちのところに届け出て来なさい、そして、その試合に関しては、私たちがすべて管理します、という姿勢なんですね。ですから、その試合がAだろうが、Cだろうが、はたまたOだろうが、それは彼らには、本来あまり関係のないことなんです。

林 この試合が「合法的な殴り合い」であることだけは認めますよ、タイトルのことは業者のほうで決めてください、ということですね。それがコミッションである、と。

安河内 誤解を恐れずに言えば、タイトルの権威や重みを守るということに関して、アスレチックコミッションはさほど関心がない。12回戦、10回戦という一つの試合をしっかり管理していく、というのが、彼らの一番の仕事です。この発想が、全米やフィリピンなど、いわゆる「政府管轄」のコミッション制度であるわけですね。

林 そう言われてみると不思議なんですが、コミッションが政府管轄ではない国では、いわゆる喧嘩などの暴力行為と、ボクシングやキックなどスポーツと呼ばれるものの法的な差がどこにあるのかと。「これは喧嘩ですよ」「これはスポーツであり試合ですよ」・・・この二つの差を分ける法的根拠は、実はないのではないでしょうか。財団法人・日本ボクシングコミッションが認めたものだけが「合法的な殴り合い」で、認めないものは「違法な暴力行為」ですよ、と言えるかというと、現状は全然そんなことはないわけであって。他にプロレスもあればK−1もある。そもそも、プロレスラーが駐車場とかで殴り合いしたりして、何で警察が来ないのか疑問ですよ(笑)日本では、格闘技全般に関して、法的根拠が非常に薄弱な気がしますね。

安河内 「ボクシング法」という法律があれば理想ですよね。その法律に基づいて、コミッションが試合を統轄管理していく。コミッションが発行するライセンスを持っていなければ試合が出来ないんだ、ということが誰の目にも明らかになるようにしていく。そうすることが、ボクシングを純然たるスポーツとして存在させ、ひいては選手の健康管理に資することになるのではないでしょうか。

林 まったくですね。

安河内 しかし日本の場合は、そういった法律がない。コミッションは財団法人ですが、一私人なわけです。もちろん政府管轄でもありません。この状況で管理していくことの難しさ、というものに私たちはこれまで直面してきたし、これからも直面していかなくてはならないのです。


「JBCには草試合を許さない力を持って欲しい」(林)

林 これは大問題ですね。例えばプロレス団体が、どんどんボクサーを呼んで、IBFの世界タイトルやったり、PABAのタイトルをやったりしても、コミッションは口出しできないということですよね。

安河内 K−1もそうですね。K−1をクイーンズベリールールでやります、と言ったら、それはボクシングです(笑)

林 ルールブック第1章に、「コミッショナーはJBC管轄下で行われる日本での全ての試合を指揮・監督する」とありますけど、本来ならばJBC管轄下ではなく、「日本で行われるあらゆるボクシング試合」を監督する、とならなければおかしいわけですよね。プロレス団体やK−1がボクシングルールで試合を行うとなった時に、それに待ったを掛けられるシステムを作れるかどうか。「それはJBCに届け出ないと法律違反ですよ」と言えるくらいの力がせめて欲しいですね。逆にそれくらいの力を持てば、女子ボクシングだってJBCで充分、統轄していくことが出来るのではないですか。

安河内 そう言えばこの前、オーストラリアのコミッション役員が、オーストラリア人が日本で試合をしたはずだが、と結果を問い合わせてきたんです。でも、よく調べてみると、それは女子の試合だった。私は日本のコミッションの事情を説明し、女子ボクシングに関しては管轄していないことを分かってもらったのですが、彼らからすれば、プロボクシングを統轄する組織なのになぜ?と違和感があったでしょうね。日本のコミッション制度はそういう意味で独特ですね。

林 JBC非公認である女子ボクシングやIBF日本など、「草試合」が堂々と行われているのも、おかしなことですよね。何とか、政府管轄に近い形でJBCに力を持たせることは出来ないですかね。

安河内 英国も、コミッションは政府管轄ではありませんが、それでもボクシングはちゃんと管理されている。JBCは政府管轄ではないけれども、幸い、文部科学省を主務官庁とし、財団法人という公益法人格を付与されています。これは他の格闘技には少ないものですよね。また協会とコミッションとの長い歴史があるわけですから。しっかりとした管理を目指そうと思えばそれは充分可能だと思います。「コミッションと協会は両輪だ」という言葉がありますが、今日まで協会が、ボクシング界の秩序を保つため果たしてきた役割は大きいといえますね。

林 協会は、異端者を村八分にする力はすごいですからね(笑)IBF日本の時などは確かに力を発揮した。

安河内 いや村八分にするだけではないですよ。当時は確か河合協会長だったと思いますが、統轄機関がきちんと機能していない団体がボクシングに関わることの危険性を、声明文を出して、しっかりと訴えていました。そういうところが協会のすごいところだと思います。

林 でも、IBF日本は日本ボクシング界の枠組みの中でやろうとしたから、村八分にされて失敗に終わったわけですが、まったくボクシング界の枠組みにとらわれない外部の人間が、同じ事をした場合、協会の力だけでなんとかなるかどうかは疑問ですね。下手するとボクシング界の分裂ということになりかねない。

安河内 分裂という事態だけは絶対に避けなければなりません。ですから、これからは林君が今言ったような危機感・問題意識を、関係者が持つことが必要ではないでしょうか。でないといざという時に対応できない。第二コミッション的な発想で新しいものが出てきた時に、そもそも私たちの立場に法的なお墨付きはないわけですから。

林 そのことが怖いといえば怖いですよね。

安河内 ですから、今まで関係者がこうやって作って守ってきた秩序を、どうやったら維持していけるのかを考えていかなければならないですね。そして、その前提として、そもそもコミッション制度は何故ボクシングというスポーツに必要なのか、コミッションの意義・役割とは何なのかを考えていく必要があるのではないか。その延長線上で、PABAの問題も、自ずと将来的な解答が出てくるのではないかな、と思います。

(以下次号)




安河内剛/ 1961年、福岡県出身。早稲田大学法学部在学中にプロテスト合格、C級ライセンス獲得。司法試験を目指す傍ら、(財)日本ボクシングコミッション(JBC)の仕事を手伝い、レフェリーなど試合役員を経験。1994年、正式にJBC入り。現在は国際部長として、JBCの中枢で活躍中。

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