「林隆治のこの人と真剣勝負!」第2回 (安河内編A)

ゲスト    安河内 剛氏

 (財団法人・日本ボクシングコミッション国際部長)

写真     山口裕朗氏

ホスト構成 林隆治







先月に引き続き、今月も安河内氏との対談の様子をお送りします。プロテストの話題から始まり、ボクシング界の構造改革まで大きく話が広がり、熱い討論はとどまるところをしりません。(林隆治)

「テストのハードルを上げて、ディフェンスをもっとしっかり見ていきたい」(安河内)

プロテスト制度

林 では、プロテストについて話をしましょう。先ほど、ディフェンスもまともに出来ないような選手がリングに上がっている、という話がありましたが、そういった話が出てくること自体、プロテスト制度そのものの意味が問われているということではないか、と思うのですけれども。安河内さんはかつて、プロテスト改革を唱えていたと記憶していますが、その点についてはどう思われますか?

安河内 私のプロテスト改革論と、林君の改革論とは根底から違うものだと思います。まあ、そう勝手に解釈させてもらっているのですが。

林 そうかもしれませんね。

安河内 つまり私が、今のプロテストを少しでも良くしようと思っていることは、あくまで現行のクラブ制度を前提としているもので、自ずと限界があるんです。林君の意見はとても興味深いので、あとで聞かせてもらおうと思っているのですが、林君の考えていることが、ある程度、クラブ制度を壊していく方向にあるとすれば、私は現行のクラブ制度の維持というものを前提とした上で、少なくとも今のプロテストよりはハードルを高くして、ディフェンスを中心とした技術的な部分を、もっとしっかり見るにはどうしたらよいか、ということを考えていきたいと思っているのです。ただそれを全国規模で行うのは非常に難しいことでもあるのですが。

林 一時期、プロテスト合格後、半年間はその選手を試合に出してはいけない、という協会の内規がありました。つまり試合に出すには早いと。ということはプロテスト合格の基準は、試合をして良いという基準ではない、ということになってしまうわけですよね。

安河内 まさに林君の言うとおりです。プロテストに受かった選手を、次の日からすぐ試合に出せるジムがあるかというと、当然、怖くて出せないわけです。だからこそ、そこを変えていかなくてはならないと思っています。

林 先ほどの例(先月号参照)ではないけど、なんでこんな未熟な選手をリングに上げたんだ、という批判がよくありますが、ジム側からすればそれは最終的にはコミッションの責任だろうと。プロテストに受かったプロボクサーなんだから、ということになってしまう。

安河内 テストに受かった人間を試合に出すのは当然じゃないか、ということですね。コミッションが試合に出ても良いという、お墨付きを与えた形になってしまっているわけですから。その部分で、コミッションによる技術関与の非常な難しさを、確かに感じるんですよ。

林 かと言って、私の持論のように「ボクサーの数を減らすため」という目的で、プロテストを極端に厳しくすると、今度はジム経営が破綻する可能性がある。つまり私の主張も自分の首を絞める結果になるわけで、そこがジレンマなんですよ。

安河内 林君のその「ボクサーの人数を減らせ」という意見、また、それに伴ってマネージャーですか?それも減らしていこう、という意見について聞きたいのですれども。

林 というより、ボクサーの数を減らすことによって、マネージャーだけでなく、ジムそのものが自然と減っていくことになる、というのが私の持論です。つまり、ボクサーを減らせば、意図せずとも必然的に、ボクシング界の大リストラが起こる羽目になると思うんです。その結果、クラブ制度は崩壊し、マネージャー制度に移行していく。

安河内 なるほど。

林 私のようなプロモーター的な立場から言えば、ボクシング界は見ている人と、やっている人の人口のバランスが非常に悪い。見ている人の割合に比べ、携わっている人が多すぎる、ということですね。だから、携わっている人をある程度、リストラする必要があるのではないか、とは思っています。ただ、その手段として、プロテストで絞り込んでしまうのかどうかは、また別の問題なのですが。プロテストをいきなり厳しくすれば、ジム経営がまったく成り立たなくなるのは間違いないですからね。プロテスト合格が教習所で自動車免許を取るのと同じように簡単だから、みんなジムに来るわけであって、F1レーサーになるくらい難しいですよ、と言ったら、誰もジムの門を叩かなくなる。だから、私の主張は急に実現出来るものでもないんですよね。


「ジュニア制度によって、ジムは、青少年育成や本物のプロを育てる場所として有意義なものになる」(安河内)


安河内 あるジムの会長が、プロテストは簡単であれば簡単なほどいい、そのほうが練習生が増えるから、と言っていました。本当にそう考える人が少なくないとしたら、現状を改革するのは容易ではない。ご存知のように、プロテストという制度そのものが、基本的に諸外国にはない、日本独特のシステムですよね。その独特のシステムのみで、ボクサーの人数を絞り込むことは技術的にも構造的にも、困難だと思いますよ。もし、ボクサーを減らすことによって、技術レベルを上げようとか、本当にプロとしてふさわしいものだけの試合を見せよう、ということを実現しようとするのであれば、クラブ制度を前提には出来ないのではと。

林 まったくその通りですね。

安河内 諸外国のように、アマチュアという裾野があって、その中での切磋琢磨があり、そうした中での一握りの優れた人間たちがプロになってくる、というピラミッドの構造があれば良いのですが、日本のプロボクシングにとっては、そう意味でのアマチュアはないも同然ですから。ということはみんな、ジムの門を叩いて、そこで一からボクシングを教わり、そして1年ないし2年でプロテストを受験する、ということになる。こうした状況の中で、ただ単純にテストを厳しくしてボクサーの人数を減らしていけるのか。もう、これは構造改革の問題になってしまいます。

林 そうなんですね。今、プロテストというテーマで話していますけど、これを突き詰めていくと、結局、ボクシング界の構造改革や、真のプロとは何か、というところまで話は深くなってしまうんです。この前、安河内さんから聞いた「ジュニア制度」の話が非常に印象に残っているのですが、それを、もう一度話してもらえますか。

安河内 はい。今のアマチュアは、基本的に中学生以下を相手にしていないわけですよね。そのような状況の中で、中学生より下の年齢層を集めた大会のようなものを、ジムが力を合わせて、何とか全国規模で実施できないか、というのがジュニア制度の考えなんです。実は、私どもの主務官庁である文部科学省が、青少年育成という観点から、中学生くらいまでを対象とした全国的な競技会を行なっているか、というアンケートを取ってくるのです。ボクシングを統轄する団体として、そのような大会は当然持っているだろう、と。

林 へえー、そうなんですか!?

安河内 それって、とても重要なことなんです。例えば野球、サッカーはもちろん、ドッヂボールやソフトボールでも小学生・中学生の全国レベルの大会がある。他のスポーツでも然りです。ボクシングはその部分でものすごく欠けているんですね。

林 本当にそうですね。

安河内 ただ、そのようなものを実施した場合、アマチュア連盟との関係をどうするか、という問題が出てくる。プロのジムとの関わりを厳格に考えているようですからね、今の連盟は。しかし、もしそういうことをクリアに出来るのであれば、選手育成のプロであるジムという存在は、青少年育成の場所として、そして将来の「本物のプロ」を作る場所として、ものすごく有意義なものになってくると思うんですよ。

林 それはすごいことですよね!私も最初は、ボクサーの数を減らす手段として、ただ単純にテストの合格者を十分の一にすればいい、と考えていた。でも、よく考えたら、人間は一回のテストで簡単に判定できるものでもないし、どのスポーツでもどの競技でも、みんな小さい時から切磋琢磨して、その中で淘汰され、生き残ったものが、上に登っていく仕組みになっている、ということに気が付いたんです。プロ野球がいい例ですよね。リトルリーグから始まって、中学、高校、大学、と段々にふるいにかけられ、それで生き残った人間が最終的にプロ入りする。ボクシングにも、そういった、小さい頃からふるい落とすシステムが欲しいですよね。

カメラマン山口 タイの田舎では、男の子は小さい時からジムに入れられたりしますが、地方の村祭りとかで優勝したりしないとバンコクで試合は出来ません。逆に言うと、バンコクで試合をしているのはそういう奴ばっかり、ということです。

安河内 アメリカでも15歳くらいまでのジュニアの全米大会というものがあるそうですが、まずそこで勝てなかった者が淘汰される。生き残ったものは、さらに上の大会を目指す。そういう段階を経てるので、どんどんレベルの高いものになっていくんですね。また、アメリカなどはプロとアマの垣根が限りなく低いですから、例えば、プロの試合のゲート収入の数パーセントをアマに還元するとか、そういったシステムがもうすでに成り立っているんですよ。

林 へえー!

安河内 つまり共存共栄ですね。アマチュアがあるからプロがある、プロがあるからアマチュアが栄える、というごく当たり前のヒエラルキーが、そこには存在しているわけです。ところが、日本には、そういった段階構造がないんですよね。では、ないから諦めるのか。それとも、ないけれど、それに代替するもの、たとえばジュニア制度のようなものを作っていくのか。私はこれから若い人たちで絶対に出来ると思うんですよ。それが出来れば、ジムというものはものすごく発展性のある存在になると思います。ジムは、幼稚園児から小学生、中学生に至るまで、体力増進のみならず、いじめなどの心のケアを含めた、きめ細かい対応が出来る場所ですからね。全国規模の大会を開催することで、その前提となる地域レベルでのボクシングの普及を促すことが出来る。選手育成のプロであるジムの、地域における役割は限りなく大きいと思うのです。だから私は、林君の意見と違って、ジムはたくさんあっていいと思う。


「予備プロ制度というのはどうだろう」(林)

林 ジュニア制度というものを、プロ界で確立できてしまえばいいわけですね。

安河内 協会で、そういったことは出来ないですかね。

林 少し話はそれますが、「プロボクサーを減らすべき」という私の持論の実現方法として、プロテストを厳しくする、というのは現実的ではないな、と思った時、「予備プロ」制度というのはどうだろう、と考えついたのです。ファイトマネーが発生する「真のプロ」を、例えば「日本ランカー以上である」とか決めて、それまでの段階、4回戦、6回戦などを、ノーファイトマネーだけどプロを目指す正式な集団、つまり「予備プロ」ということにする。そうすれば実質的にプロボクサーの数を減らしたことになるんですから。ただし、本当のプロになったら、今よりもっとファイトマネーを手厚くする。上と下で貧富の差があった方が夢があると思うんですよ。現在のボクシング界は変に平等主義で、かえって夢がなくなってしまっている気がします。だから、私の「ボクサー減らし論」は、だいぶこちらに傾いているんですが、そういうシステムを作れば、ジュニア制度も「予備プロ・ジュニア部」という位置づけでプロ界の中だけでも充分、やっていける。

安河内 なるほどね。ただ、その予備プロである4回戦の試合は、どういう形式でやるのですか?

林 そこは確かに難しいです。今とまったく同じにヘッドギアなしで殴り合いさせては、それでファイトマネーなしかよ、と言われるでしょうね。そういう意味で社会的なコンセンサスを得るのは容易ではないかもしれない。

安河内 でも、その予備プロ的発想というのは、実現するには様々な障壁があってとても難しいと思うけど、やる価値があるなと、私は思いますね。今のボクシング界というのは、選手の身内に支えてもらっている部分がかなり高いと思うんです。お客さんは自分が応援している選手の試合が終わると帰ってしまう。結果、メインイベントの時が一番ガラガラになっているという時もある。つまり、「ファン」の不在ですよね。これでは、ボクシングがプロスポーツとして成り立っていない、と言われても反論できない。林君の言う予備プロのような制度があれば、「ファンがつくプロ」が誕生するかもしれない。

林 世間では興行数もどんどん増えて、ボクシング人気が上昇している証拠だ、みたいなことを言う人もいますけど、私なんかは興行数は少ないほうがいいと思っているくらいですから。K−1のようにたまにしか興行をしなければ、ボクシング界でも客は充分入りますよ。でも赤字なのに、なんで無理やり興行をやっているんだろう、と思うと、それはボクサーが多すぎるからなんですね。ボクサーに試合をさせるために、仕方なくやっている場合もあるんです。

安河内 ただ何度も言っているように、単純にテストを難しくしてボクサーを減らすというのは、クラブ制度を前提にしていては難しい。だから大幅な構造改革を行うのか、それともジュニア制度を立ち上げるとかするのか、とにかく、いろんな知恵を持ち寄って、何とかこの状況を打破したいですね。

(以下次号)





安河内剛/ 1961年、福岡県出身。早稲田大学法学部在学中にプロテスト合格、C級ライセンス獲得。司法試験を目指す傍ら、(財)日本ボクシングコミッション(JBC)の仕事を手伝い、レフェリーなど試合役員を経験。1994年、正式にJBC入り。現在は国際部長として、JBCの中枢で活躍中。

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