| 『ボクシングファン心理』 | ||
| Sports Graphic Number238 『次のボクシング特集号はいつ?』 |
Text By 中津川 一路 |

| スターというものはそのスポーツにとってこの上なく大切なものだ。業界が活性化するし、そこに集う人の懐も潤う。従ってみなスターを育成しようと試みる。NBAが中国市場を開拓しようと、姚明をスカウトしたり、ヨーロッパのサッカー・クラブチームがアジアツァーを行ったり、スター誕生には戦略が大きな要素を占めるようになった。 ただ実際に姚明が試合で活躍しなければ、彼はスターとはなりえなかったとしても、人工的に作り出されたスターの感はぬぐえない気がする。 作り出されたスターはボクシング界にもぽつぽつといるが、時代に要請されたように現れる、本当のスターが生まれる確立は極めて低い。広告マンの手管以上の何かがあって、時代を象徴するような本物のスターは生まれる。マイク・タイソンというのは大きな星だったと今になって、つくづく思う。彼一人にボクシングに関わる人がどれだけ潤ったことか。 ボクシング界においては、一部のマスコミがスターを創出しようと図ろうとしても、ボクシングファンの目は厳しい。本物かどうかを見極めようとするし、実力を証明する実績がなかったりすると断固拒否する。正道ではあるが、スターを作りにくい世界ではある。ただ楽な相手とだけ試合をさせて、白星を羅列させてランキングを上げるようなスター育成方法では、『本物』は絶対に生まれないことは事実だし、業界の構造的な問題も多いが、それはここでは控えます。 老舗のスポーツ情報誌、Numberも以前はボクシング特集を組むことがあった。 タイソンの記事をメインに、過去の世界戦のラインナップなども定期的に掲載されていたり、ボクシング一色の内容で、専門誌には収まらない長編のルポや対談、特集など今となってはさみしささえ感じさせる盛りだくさんな内容だ。 この『タイソン、砕ける。』と題した、タイソンがダグラスに敗れた試合をメインとした特集号は、タイソンの試合以外にも、吉村昭氏と沢木耕太郎氏の対談、高橋ナオトとマーク堀越の試合についての佐瀬稔さんの文章、東洋の恐怖と呼ばれたハーバート康のルポ、井上ひさし氏のボクシング体験のコラムまである。ボクシング専門誌の増刊号以外でこのようなラインアップが揃うことは、もう、ない。サッカーやF1、時に格闘技がメインになることはあっても、ボクシングが表紙を飾ることはとんとなくなってしまった。 レナードが去り、タイソン、辰吉が盛りを過ぎて以降、ボクシングはマイナー化が一層進んでしまった感が強い。総合格闘技やK-1などの台頭も遠くない原因だが、ボクシング界のボーダーを飛び越えるボクサーが出現しないことも大きい。 タイソンよりも強いレノックス・ルイスはボクシング界以外では認知されることなくリングを去り、デラホーヤの人気も境界線を飛び越えるものでもない。メキシコでも、チャベスが去って以降、ボクシングの興行は激減し、人気の低迷は続いているという。(現在の人気No.1はホルヘ・アルセだそうだ。)人気低迷は日本だけの問題ではないようだ。むしろ日本の方が、定期的に興行があり、盛んなようである。メキシコでもスターが出現すれば、その様相は一転するだろう。一人のスターというものは全てを活性化させる。どんな方策にも増して。 日本において、スター出現の予感も予兆も今のところはない。海外に目を転じても、クリチコ兄弟もフロイド・メィウェザーも、ミゲル・コットもレナードクラスのスターになれるかというと、どうもぴんとこない。アリ、レナード、タイソン、デラホーヤときて、間隔的にもそろそろ次世代のカリスマが現れても良さそうなのだが。それとも、このままボクシングがマイナー街道まっしぐらになってしまうのだろうか。 海外はさておいて国内における、今の野球のスターはヤンキースの松井だろう。サッカーのスターは中田だろうか。次代のヒーロー像は海外で活躍する日本人ボクサー・・・と見えてくるが、サッカーや野球に比べるとやや道は険しい。しかし、不可能ではないと思わせる出来事がアジアで起きた。 フィリピン生まれのサウスポーの強打者は、ラスベガスに登場すると、あっという間に天上に駆け上った。マニー・パックマン<pッキャオはフィリピンの英雄となった。それは事件に近いインパクトだった。 そして、その影響は末まで行き渡る。最近、従順に負け役を務めず、日本のホープを『噛んで』しまうフィリピン人ボクサーが多いのは、アメリカで活躍するヒーローの影響も少なからずあるのではないだろうか。 野茂だって最初は無謀だと言われたわけだし、パッキャオだってピンチヒッターからのし上がっていったのだ。時代は巡るなら、ぼちぼちスターが現れるはずだ。日本においても、世界スケールにおいても。 そのときはNumberもボクシング特集号を復活してくれる・・・かな? |