日本人ボクサーの武者修行と言えばメキシコやロサンゼルスが多いのですが、ここラスベガスで武者修行をするボクサー達もいます。日本人に限らず、ラスベガスには世界中から多くのボクサーが集まる為、人脈さえあれば非常に良い練習ができるからです。

ラスベガスでの武者修行といえば、帝拳ジムの稲田選手が長期滞在していた事が有名ですが、1月の中旬から4月の中旬にかけて同じ帝拳ジムの日本ライト級9位、速水美成選手がラスベガスで修行をしています。友達の紹介で速水選手と知り合い、その関係で私が滞在中の面倒をみる事になりました。
速水選手は総合格闘技団体「パンクラス」の謙吾選手と親睦が深いため、同じくラスベガスで修行中の謙吾選手に便乗してラスベガスに来ました。来た当初はラスベガスでの人脈が無かった為、練習場所やトレーナーは私が紹介する事になったのです。
トレーナーは、フロイド・メイウェザーの叔父にあたるジェフ・メイウェザーに頼み、練習場所は私がトレーナーをしているリチャード・スティールボクシングジムになったのですが、リチャード・スティールジムが2月17日に移転の為閉鎖したので、新しいジムがオープンするまではトップ
ランクジムや他のジムで練習する事になりました(スティールジムの移転に関しては来月号で詳しく書きます)。
ラスベガスという場所を最大限に活かすには、日本ではできないような選手とスパーリングする事が良いと思い、速水選手と同じ階級の現役世界チャンピオン、フロイド・メイウェザー・ジュニアとのスパーリングを実現させようと思い、フロイドのトレーナーのロジャー・メイウェザーと話をしました。アメリカの選手は試合前以外は基本的にスパーリングをしない為、試合が近くないフロイドのスパーリングには乗り気ではなかったのですが、粘りに根負けしたのか結局受諾してくれました。スパーリングは2月2日、トップランク
ジムで行われる事になりました。

約束の時間から遅れること30分、取り巻き7人ほどを従えて、真っ白の「ハマー」に乗ってフロイドはジムにやってきました。さすがアメリカン
ドリームを実現した人物だけあり、身の周りの世話はすべて取り巻きが行ないます。フロイドがジャケットや服を脱げば即座にたたみ、バックから靴や服を出すのはもちろん、外では他の人が車を洗っている時もあるほどです。
アメリカ人のボクサーは、基本的にストレッチや準備運動が短いのですが、フロイドも例外ではありません。ストレッチを全くせずリングに上がり、お気に入りのヒップホップを大音量でながし、シャドーをするのかと思いきやダンスを始めました。リングの周りでは取り巻きたちが掛け声を出し、フロイドのテンションを上げています。ダンスを2ラウンドほどやった後、いきなりグローブを付けはじめたのには驚かされました。スパーの前に全くシャドーをやらないからです。確かにダンスの中にシャドーボクシング的な動きも含まれていたのですが...
取り巻き達がリングサイドで「パウンド フォー パウンド!!」などと大声で叫びながらフロイドのテンションを高めている横で、私と速水選手はせかせかとスパーの準備をしていました。ジェフ
メイウェザー曰く、フロイドはスパーリング パートナーが誰であれ、全く手を抜かないらしいので私は心配していたのですが、本人はワクワクしていたそうです。

先程まで流れていた大音量の音楽は止められ、スパーリングがスタートしました。1ラウンド目はフロイドが様子を見る感じで始まり、わざと速水選手にパンチを打たせていました。スパーの前には、「一発でもクリンヒットを入れたい。」と言っていた速水選手ですが、いきなりの右やジャブは軽くではありますが数発ヒットしていました。しかし、その後は世界チャンピョンの本領を発揮し、少しずつ攻撃を始め、3ラウンドあたりからジェフが予告していた通り倒しにかかってきました。速水選手が気合を入れるために声を出すと、フロイドは「Shut
Up! Shut up!」と言ったり、口で「プッパ プッパ!」とヒューマンビートを刻むなど、小ばかにした態度もフロイドらしく見え、速水選手もなぜか腹が立たなかったみたいです。普通のボクサーがスパーリングでこんな態度をしたら問題外ですが。
フロイドとの4ラウンドのスパーリングは非常に見ごたえのあるものでした。やはり実力差は歴然としていたのですが、何発か速水選手のパンチも当たっていたし、最後までやり遂げたので上出来ではないでしょうか。しかし、スパー後の速水選手の顔は試合後のボクサーのように晴れ上がり、現時点での力量が反映されていました。
スパーリング終了後、フロイド陣営からの速水選手の評価は非常に良く、シャワールームでは陣営から賞賛されていました。フロイドからは「次の試合はタイトルマッチでもノンタイトルでもいいから、君と日本でやりたいよ。」と言われていたのですが、それはフロイド流のリップサービスでしょう。
今回のスパーリングは、速水選手にとって12月の試合後の初スパーだったので大変だったと思いますが、パウンド フォー パウンドの一人とスパーリングをした事は貴重な経験になると思います。
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