「愛すべきラスベガス」
ジムの危機 Text Photo By 篠田誠司



近年、ラスベガスはボクシングのメッカとして栄え、その動きに伴い多くのボクシングジムがこの町に存在しています。現在、プライベートのジムを含めると約13のボクシングジムがあるのですが、その中でも最も歴史の深い2つのジム、そして私がトレーナーをしている「リチャード・スティール ボクシングジム」の存続が危機に面しています。

フリオ・セサール・チャべスなどのトップ ファイター達が利用していた事でも有名な「Johnny Tocco's Boxing Gym」は現在売りに出されており、ラスベガスにあるボクシングジムの中で最も古いジムの1つ「Golden Glove Gym」は2003年の12月を最後に閉鎖されました。

ゴールデン・グローブジムと言えば、マイク・タイソンのホームグランドとしても有名で、タイソンが50000ドルのウェートトレーニングの機材を寄付するなど、タイソンにとっても愛着のあるジムであり、タイソンが試合前の調整でトレーニングする時などは、ジムの外壁に「Welcome Back Home,Tyson!」と横断幕が張り出されるほど親睦の深いジムでした。ラスベガスに豪邸を持っている(現在は破産した為、差し押さえになっている)タイソンが、専用のジムを持たずにゴールデン・グローブジムを利用し続けた事を見ると、タイソン自身もこのジムを好んでいたのでしょう。

ゴールデン・グローブジムでは、閉鎖されるまで定期的にジム内でアマチュアの大会も行われていました。5階級制覇王者のオスカー・デラ・ホーヤもアマの頃にこのジムでトーナメントに出場し、フロイド・メイウェザーはオリンピック前の練習でも利用するなど多くのトップボクサーに愛されているジムなのですが、今回閉鎖される事になり非常に残念です。

ゴールデン・グローブジムは、1981年に警察官のHal Millerによって設立され、彼が1997年に他界した後も義理の息子のDavid Moodyによって運営されていました。今回の閉鎖に関しては、地主であるFOP(Fraternal Order of Police)とゴールデン・グローブジムとの間での対立が主な原因であると言われています。

ゴールデン・グローブジムが所在している土地は、3年前にテレビ局の経営者James E. Rogersによって買収され、2.6億ドルをかけて新しいビルに立て替える予定でした。彼は長い歴史のあるジムに敬意を表し、建設費の60万ドルを新しいジムの為につぎ込み、残りの費用を車博物館に充てる予定だったのですが、前出のFOPがこの案に対しての採決をとり、過半数で新ジム計画は却下されたのです。しかし、FOPのメンバーは470人いるにも関わらず、この採決に参加したのはたった12人で、その内の7人の否決でジムの存続が断たれたのです。470人中、たった12人しか参加していない採決というのはあまりにも不自然であり、しかもゴールデン・グローブジムの会長 Moody はFOPの代表も兼任しているのにも関わらず、この案が却下された事をみると、ゴールデン・グローブとFOPの亀裂が相当深いものだと想像できます。結局、Rogersは内部抗争に巻き込まれたくないという理由で、この案を取り消してしまったのでジムは閉鎖に追い込まれたのです。

私がトレーナーをしている「リチャード・スティール ボクシングジム(Nevada Partnersという施設の中にある)」も4月に閉鎖される事になりました。このジムは8年前に設立され、以来多くのプロボクサーやアマチュア ボクサーが練習に励んできたのですが、約1年前に飲食関係の労働組合がこの施設を買い取った為、ボクシングジムは追い出される形になったのです。当初は、労働組合の方が250000ドルをかけて新しいジムを用意してくれる予定だったのですが、昨年の11月に費用が無いという理由でキャンセルになりました。しかし、リチャード スティールとジムのスタッフはボクシングに励んでいる子供達の為に、新しい場所への移転を考えています。

ゴールデン・グローブジムや、リチャード・スティール ボクシングジムは子供達の人間育成という目的でボクシングを捉えているため、双方のジムに所属している子供達の行く末を心配しています。ゴールデン グローブジムは、ベリーズ ボクシングジム(このジムも子供達に重点を置いている)に子供達を託すようです。

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