| 元東洋太平洋バンタム級チャンピオン Text By 新田 渉世 Photo By 山口裕朗 |
![]() |
||
| 野口ジム 横井龍一トレーナー |
「まだ現役中の頃から、会長に『トレーナーになれ、トレーナーになれ―』って言われてたんですよ。やっぱり才能なかったんですかね・・・」 ワタナベジムの“ザ・南国”宮田正明トレーナーから紹介された今月の“戦士”は、野口ジムの横井龍一トレーナー。横井氏が自分の担当選手を、しばしばワタナベジムにスパーリングに連れて来たことがきっかけでふたりは親しくなった。 野口ジムのホームページで“横井動物園の飼育係”と紹介されている横井トレーナー。実家が動物園を経営しているのかと思ったら、とんだ勘違いだった。頂いた名刺の裏に「横井動物園 代表選手」がリストアップされていて、“Sバンタム 成田美海(トラ)”という具合に、担当する選手達の名前に動物が割り当てられていた。 ![]() 「ボクが現役時代に“ウシ”のぬいぐるみを着て入場していたので、選手達にもいろんな動物のコスチュームを着せて入場させているんです。」 あまり評判が良くないので、そろそろ閉園してしまうらしい。当然かもしれないが、少し残念な気もする― 昭和49年2月24日、富山県生まれの29歳。中学・高校時代は柔道に打ち込んだ。「一応2段までいったんですよ。」と謙遜しながらも自慢する。「ホントはプロレスラーになりたかったんですけど・・・」―淡い思いは胸にしまい、高校卒業後は実家の居酒屋を継ぐ為に銀座で板前修業に明け暮れていた。 そんなある日、ボクシングファンでもあった横井氏は、渡辺雄二vsヘナロ・エルナンデスのWBA世界S・フェザータイトルマッチを観戦。 「ヘナロは大したことなさそうに見えて、あんなに強い渡辺雄二を倒してしまうんだ!!」 ボクシングの奥深さに魅了された横井氏は、当時目黒にあった野口ジムに駆け込んですぐに入会した。そして野口勝会長に鍛えられ、4度目のプロテストで見事合格。晴れてプロボクサーとなったのである。 しかし、7戦目で網膜はく離を患い、現役を引退。 「7戦して1敗しかしてないんですよ。立派なもんでしょ?」 と謙遜しながらも自慢する横井氏の戦績は“7戦2勝1敗4分”― 「2勝全KOですからね!」 と謙遜しながらも自慢していた。最後の4試合が引き分けだったところが、つかみ所のない横井氏のキャラクターを表しているような感じがした。 現役引退後は、野口ジムでトレーナーへと転身した。 「ボクがまだ現役の時から、野口勝会長(当時マネージャー)に『トレーナーになれ、トレーナーになれ―』って言われてたんですよ。まるでストーカーのように追いまくられていました。」 そしてとうとう“横井動物園 飼育係”に就任したのである。 「会長は、選手指導について一歩も二歩も引いて、ボクに全てを任せてくれるんです。」 以前は、週に何度も一緒に酒を飲んだという横井氏と野口会長は、固い信頼関係で結ばれているようだ。 「会長、余計なこと言わないで下さいよ!」 「そうか、分かった。」 ![]() そんな会話が、自然に取り交わされる間柄らしい。 「かなり我がままを言わせてもらってます。だからこそ結果を出さなきゃいけないと思うんです。」 今の横井トレーナーの夢は、“チャンピオンを育てること”だ― アルバイトで知り合った愛妻の文子(あやこ)さんと、今年の8月に生まれた龍瑠(たつる)君の3人家族。現在は、ジムの2階に住んでいる。龍瑠君を抱いて1Fのジムに降りてきた文子さんは、“横井動物園 飼育係”にはちょっともったいない(ゴメンナサイ)くらい可愛らしい奥さんだった。龍瑠君も、文子さんのお腹にいた時からサンドバッグやミットを打つ音を聞いていたせいか、ジムが大好きらしい。 「どんなに泣いていても、ジムに連れてくると泣き止むんですよ。」 ボクシングが大好きだという文子さんは、東洋太平洋S・ライト級王者・佐竹政一のファン。 「あんた、佐竹みたいな選手育てられないの?!」 と、横井氏は尻を叩かれながら頑張っている。 「ボクはトレーナーというよりも、どっちかって言うと“ボクシングおたく”なんです。休日はほとんどボクシングビデオを見ています。あとはお酒が大好きですね!」 野口ジム近くの居酒屋で、通称“野口割り”と呼ばれる焼酎とお湯を8対2で割ったグラスをグイグイと飲み干していった横井氏は、だんだんエンジン全開になってきた。 「ボクはボクシングと酒しか知らない男です!!」 我々を歓迎してくれたのか、やや緊張していたのか、それともただ飲兵衛なのか、どちらにしても少々ベロベロになりながら自分をさらけ出してくれたことが、とても嬉しかった。 「ボクはねえ、メキシコのボクシングが大好きなんですよ!特にチャべスが大好きなんです!!」 ベロベロになりながらも、自らのボクシング哲学を語る時は不思議としっかりとした口調だった。 「やっぱり打たせないことが大事ですよ。メキシコの防御技術なら日本人にも真似が出来ると思うんです。100mを9秒台で走るような黒人のボクシングは、日本人には無理でもメキシコのボクシングなら出来ると思うんです!」 自らが網膜はく離で引退を余儀なくされた経験からも、打たれることへの嫌悪感は強いようだ。確かにトレーナーは、防御に対してこれくらの意識を持つべきだと考える。 野口ジムでは、横井氏の発案で“ちびっ子選手権”が行われている。小学生の練習生達で試合を行い、ランキングを設けてチャンピオンも認定する。 「勿論、ボクシングの底辺を広げることにも繋がるし、いじめられっ子が“殴り合うこと”を通じて“自信”や“心の強さ”を身につけてゆくことは、何よりも素敵なことだと思うんです。」 スパーリングや試合で鼻血を出した子が、次の日に生き生きした顔でジムにやって来るのだという。野口ジムへ通ってくる子は、いじめっ子よりもいじめられっ子の方が多い。 「選手の目標をかなえるのがトレーナーの仕事であり、いじめられっ子を強い子にすることこそ自分の仕事である」 ―そう力説する“横井動物園 飼育係”はベロベロでも何となくカッコ良かった。 ![]() 現在8人の選手を担当している横井トレーナー。 「1年後、2年後、野口ジムは盛り上がりますよ〜!」 本当は富山の居酒屋を継がなくてはならないらしい。しかし、生き生きとした彼を見ていると、このまま“飼育係”を続けたほうが良いと思う。 「選手の目標をかなえるのがトレーナーの仕事なんです!」 少しカッコ良く書き過ぎてしまったか―。基本的には酔っ払いオヤジだったのだが・・・ 「ボクに教えてもらいたい人がいたら、全身全霊を込めて面倒見ますよ!入会時に『横井トレーナーお願いします!』って言ってくれたら大丈夫だから!これ絶対書いて下さいね。」 だんだん同じことを繰り返す回数が増えてきた。 「ボクシングって素敵ですよね。とにかく頑張ってみます。」 ベロベロになりながらも、横井氏が最後に言ったその言葉は、この日一番素敵だった。 「トレーナーになれ、トレーナーになれ。」と現役中からストーカーのように迫った野口会長は、横井氏が選手として才能がないと思ったのではなく、トレーナーとしての才能に期待していたのではないだろうか。酔っ払いオヤジの横顔を眺めながら、そんな風に感じた。 |

|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||