NY、勝手に殴れ!
[ チャンプのいる街 ]
Text Photo By 杉浦 大介




     [ チャンプのいる街 ]

 [シュガー]・シェーン・モズリーは気さくなチャンピオンである。
いつでも笑顔を絶やさず、誰にでも分け隔てなく、常に真摯な態度で周囲に接する。キャリア最大の勝利となったオスカー・デラホーヤ第2戦の試合後、王冠を再び手にした後でも、その姿勢には決して変化がない。
敗れたデラホーヤが判定への不満を無様にぶちまけていたその頃、ニューヨークのミッドタウンで、モズリーは王者の笑顔を振りまいていた。
初冬の午後、スポーツ用品店「Foot Locker」に出来た長い列。色紙、グローヴ、ポスター、衣服・・・・・・思い思いの品を抱えた人々。チャンプのサインを手にするために。短時間でも言葉を交わすために。
ファンの1人が訊ねた。
「チャンピオン、オスカーは強かったですか?」
「ああ、彼は素晴らしい戦士だよ(He is a great warrior.)。勝てたのはハードトレーニングのおかげだね」
そう言って、再び爽やかに微笑む。軽く上半身だけでシャドー・ボクシングを行なってみせる。少年ファンと握手を交わして、写真撮影。
「デラホーヤともう一度?もちろん、喜んで。彼のように優れたボクサーと戦えることは幸福なことさ。ボクサーとして、そして金銭的にもね(笑)」
ボクサーは純粋な人間が多いと感じるのは僕だけだろうか?
少なくともモズリーのように、まるで混じりっ気なしの笑顔を浮かべる選手を、他のスポーツ界では僕は誰も知らない。
 オスカーとの3度目の対決はいつになるのだろう?
 ネクタイをしめて自身のビジネスに勤しむデラホーヤと、少年ファンの肩を叩いて喜ばせるモズリー。目前の好漢の、幸運と勝利を祈らずにはいられない。

 翌日の「Foot Locker」に現れたのは、アーツロ・ガッティとミッキー・ウォード。歴史的な激闘を繰り広げたライバル2人が、隣り同士に並んでファンの注文に答えている。
 「彼らは誰なの?」
 通りすがりの白人女性が尋ねる。横に立った姿の良い紳士が答える。
 「ガッティとウォード、プロボクサーだ。最高のライバル同士だ。彼らは3度戦って、どれも素晴らしい打ち合いだった。特に1戦目は、ボクシング史上最高の試合のひとつだったと言われているんだよ」
店内のモニターテレビには、両者の試合ビデオが延々と映し出されている。3試合。30ラウンド。すべてが壮絶な打ち合いだった。世界王座を持っているわけでも無いのに、これほどの尊敬を集めているボクサーたちは他にはいない。
 1組のグローヴに、拳友がそれぞれのサインを書き込む。右手にガッティ、左手にウォード。2人が盛んに笑顔を交し合っている。
いかにもおおらかなアメリカらしい光景だな、と思う。
 辰吉丈一郎と薬師寺保栄が、あるいは畑山隆則と坂本博之が並んでサイン会を行なうシーンを想像できるだろうか?
 本場はファンサービスを決して忘れない。そしてスターを取り巻く少年たちの中から、また新しいホープが生まれていく。アメリカのボクシングが廃れることはない。
 一旦控え室に戻っていたウォードを、ガッティが大声で呼びつける。
 「カモン、ミッキー!みんなで写真を撮ろうぜ!」
ウォードは引退を表明した。もう彼らの試合を観ることは出来ない。
 だが、2人の名前が書き込まれたペアのグローヴを観るたびごとに、人々はいつかの死闘に想いを馳せるのだろう。
 またガッティが叫んだ。
 「ヘイ、ミッキー、カモーン!!」



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