「愛すべきラスベガス」
スター育成2 Text Photo By 篠田誠司



 今月は先月に引き続き、スター育成について考えてみたいと思います。先月号で日本のボクサーは一般的にボクシングを始める年齢が遅く、世界のトップ選手と張り合える人材が育ち難いと書きましたが、その問題をどのように解決するか私なりの解決法を述べたいと思います。

 日本ボクシング界の繁栄を考える時、若くて有能な選手の育成を抜きにしては語れません。いかに才能ある人材を発掘し育成するかが、これからのボクシング界の盛衰を決めるのです。

 ボクシング界に限らず、スポーツの世界はピラミッド形の構造を成すのが原則となっており、そのピラミッドの底辺の層(子供達)が大きければ大きいほど、ピラミッドの規模は大きくなり、結果的にピラミッドの頂点にくるトップ選手の数や質が向上するよになっているのですが、現在の日本ボクシング界はピラミッドの底辺を抜きにして、いきなり中間層から始まっている変則的で非効率な構造になっていると思います。

 このピラミッドの構図をサッカー界にあてはめてみると、下は地域のサッカースクールや学校のクラブ、そしてプロチームが運営するジュニア ユースの3本柱から成っており、非常に大きな底辺層になっています。その結果、より優等な人材が多く育つ構造になっており、現在は世界のトップリーグで活躍する日本人選手が多くいる事はご存知のとうりです。しかも、Jリーグは5歳から21歳までの一貫指導を目指す「Jリーグアカデミー」構想を2002年から開始しており、より多くの人材発掘、育成を目指しているのです。

 一方、ボクシング界はどうなのでしょうか。依然として人材確保、発掘、そして育成に力を入れている様子はなく、非常に層が薄く、プロとは水と油の関係とも言えるアマチュア界から良い人材が流れてくるのを期待するか、ジムに入門してきた人を1年そこそこでプロボクサーにし、「即席」ボクサーを量産しているにすぎません。もちろん、ジムの方々や選手の努力によってその中から一流のボクサーが誕生する事もあるのですが、全体の構造から考えると、とても効率的とは言えません。

 そこで、将来の日本ボクシング界の繁栄を願うのであれば、今こそ人材の発掘、育成に力を入れるべきではないでしょうか。私は現在リチャード スティール ボクシングジムで主にアマの選手のトレーナーをしているのですが、小学生からボクシングを始め、キャリアを積んでいる選手達を見ると「彼らに追いつき、追い越そうと思うと今のままでは難しいな。」と思わずにはいられません。日本人の一般的な身体能力からすると、欧米人に勝つには技術と経験をつみ、そして選手層を厚くしなければならないのですが、その課題は克服可能なので実行に移すべきだと思います。その課題を克服する策の一例として、私の持論をを述べたいと思います。

 まず、子供達にボクシングを普及させる時に一番重要になってくるのが、実践(試合)の場を作る事ではないでしょうか。現在、小、中学生は試合に出れない為、ボクシングを始める子供は非常に少なく、始めたとしても練習の成果を発揮する場がないので続かないし、練習に身が入らないのではないでしょうか。そのような点を改善する意味でも実践の場を作る事は必要になってきます。

 現在、横浜のジムなどで子供を対象としたスパーリング大会が開かれていますが、この現象は奨励すべきだと思います。アマチュアボクシング連盟が小、中学生のボクサーに試合の許可を出すのを待っていたらきりがないので、このようなスパーリング大会をどんどん普及させ、将来的にはより頻繁にスパーリング大会を開催し、全国大会的なスパーリング大会も行われるようにすべきだと思います。サッカーでは、中学の部活の試合と、ジュニア ユースの試合があり、野球でも部活とボーイズ リーグやリトル リーグの試合が別に行われているので、ボクシングもアマチュア連盟にこだわる必要はないと思います。

 現在ラスベガスでは、年に一度「ネバダ州 対 ロンドン」の対抗戦が行われています。この対抗戦は小学生から高校生のアマチュアのボクサーが対象で、ネバダ州の選抜チームとロンドンの選抜チームが毎年秋頃にラスベガスで戦うのですが、もし日本も小、中、高校生の選手層が厚くなり、このような遠征試合が行えるようになれば、選手にとって非常に貴重な経験になるのではないでしょうか。実際に「日本 対 ネバダ」の対抗戦が実現可能かどうか関係者に聞いたところ、日本が選抜チームを構成できるのならば是非やりたいと言っていました。今の現状では実現するのは難しいですが、将来的にはやってみたいと切実に思っています。

 人材育成を考えるうえで、プロのジムの協力なくして実現は不可能だと思います。プロのジムでは子供のトレーニングに力を入れている所はあまり多くないのが現状ですが、将来のジムのため、そして日本ボクシング界のためにより多くのジムが人材育成に力を入れてほしいと思います。その際に、どのようなトレーニング方法を用いるべきか、ここに具体的な例を上げたいと思います。

 まず、トレーニングの時間帯はプロ達で混む時間を避け、学校が終った後の3時から4時に設定し、1人のトレーナーに6人の生徒でのグループ トレーニングにします。現在私は20人近いボクサーを抱えているのですが、皆来る時間がバラバラのため、効率的に練習をさせるのに苦労しています。この問題を解決するにはグループ トレーニングが有効だと実感していますし、6人という人数が適正人数だと思います。8人以上になると一人一人に目がいかなくなるうえ、限られたスペースやトレーニング器材では効率的なトレーニングが難しくなるからです。

 そしてトレーニング時間ですが、1グループ1時間と考えています。練習メニューの例をあげますと、まず3人に縄跳びを3ラウンドやらせている間に、あとの3人がシャドー ボクシングします。トレーナーはシャドーをしている選手の指導をするので、6人一同にシャドーをするより3人ずつに分けた方がより一人一人に目がいくので有効です。2グループがシャドーと縄跳びを終えた時点で、その後2人1組に分け、最初のグループがミットを打ち、次のグループがサンドバックを打つ。そして最後のグループにはスピードボールを打たせます。3ラウンド終わった時点でミットを打っていたグループはサンドバックに移り、サンドバックを打っていたグループはスピードボールに移るといった要領で回していきます。すべてのグループがミット、サンドバック、スピードボールを終わった時点でクールダウンのシャドーを全員一同に1ラウンド行い。その後、腹筋、背筋をして練習終了です。このメニューだと合計16ラウンドになるので、30秒のインターバルと考えると大体1時間の練習時間になります。このグループ トレーニングは1日おきの週3回にし、その他の日も自主練習としてジムを使えるようにすると、1人のトレーナーが1日2グループを受け持ち、週6日で合計4グループを受け持つ事ができるようになります。そうすると、トレーナーが1日2時間割くだけで24人の子供のトレーニングを効率的にできるのです。子供の数が多くなり、1つのジムではまかないきれなくなれば、第2ジムを作り、子供専用にしたらどうでしょうか。そうすると、1日6時間と考えてトレーナー2人で124人の子供をトレーニングできる事になります。この様な制度を全国に展開していくと、効率的に人材育成できるのではないでしょうか。ジムとしては将来のチャンピオン候補生が育つだけでなく、子供からの月謝でジム経営にもプラスになるので一石二鳥です。

 より多くのジムがこの様に人材発掘、育成に力を入れ、将来彼らがプロで鎬を削るようになれば、日本ボクシング界は繁栄するのではないでしょうか。逆に、今のような「待ち」の姿勢にいるようでは発展は望めないと思います。


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