「愛すべきラスベガス」
スター育成 Text Photo By 篠田誠司




 現在、残念な事にボクシング人気は低迷し、世界戦ですらTV放送無しという事も珍しくなくなっています。この低迷の原因として考えられる事は色々あるのですが、主な低迷理由はスーパースターの不在にあるのではないでしょうか。

 スーパースターを作りだすには、主に2つの要素が必要になると思います。まず第一にメディア戦略。そして世界に通用するボクサーの育成です。

 ボクシング人気を高めるには、現在ボクシングにあまり興味を持っていない人達を振り向かせる必要があるのですが、それを可能にするのがメディア戦略ではないでしょうか。そのメディアを最大限に使って人気を集めているのが「K−1」や「PRIDE」と言えるのですが、ボクシングファンの中には、エンタ−テイメント色が強い「K−1」に難色を示す人が多いのが現状です。しかし意識改革が必要な現在、古くからのボクシングファンや関係者も頭を柔らかくして、他の団体や競技から見習わなければならない事は取り入れるべきだと思います。確かに真剣勝負が大前提のボクシングには、「K−1」のやり方をそのまま導入する事はできないし、そもそも世界的な組織の上に成り立っているうえ、構造がまったく違うので比較できない部分があるのは理解しているのですが、メディアが人気の生命線を握っている事は共通していると思います。

 メディア戦略に加え、必要不可欠なのはボクサー育成なのですが、ボクシングの本場アメリカと日本を比較すると、一つ大きな違いがあります。その一つが、両国のボクシング界にとって大きな実力の差となって現れているのは明らかです。その一つとは、ボクシングを始める年齢に他なりません。

 現在、日本では中学生以下の試合はプロ、アマとも認めていない為、ボクシングを始める年齢が欧米と比べると遅い傾向にあります。アメリカでは、8歳からアマの試合に出れるため、高校に入学する頃には50戦、60戦以上しているボクサーも多くいます。メキシコにいたっては、5歳から試合に出れるので、アメリカと同様多くの子供たちが豊富な経験を積んでいます。その結果、当然プロボクシング界のレベルも高くなり、人材も豊富になります。実際、スーパースターと呼ばれるボクサーのほとんどが幼年期にボクシングを初めており、多少の例外を除けば皆、豊富なアマチュア経験を積んでいるのです。

 若くしてオリンピックでメダルを取り、プロで輝かしい功績を残している例で最も有名なのがオスカーデラホーヤなのですが、彼も5歳の時にボクシングを始めており、オスカーの他にも、トリニダード、バルガス、レノックスルイス、モズリーなど、スーパーチャンピォン達は皆幼い頃にボクシングを初めています。もし、彼らが日本のボクサーの様に高校、もしくは卒業後にボクシングを初めていたら、今のような功績を残せたでしょうか?彼らは吸収が最も速い幼年期からボクシングを初めている為、ボクサーのピーク時の20代前半にはほぼ完成された状態になるのです。他のスポーツと比べても、ボクシング(特に日本人が多くいる軽量級)は選手寿命が短く、ピークの時期が早いので、始める年齢が遅いと致命的になりかねません。

 ある人は、「日本人は欧米人と比べて体力、運動神経に大きな差があるため、欧米人に勝つのは困難だ。」と言いますが、はたしてそうでしょうか?他のスポーツを見てみると、その仮説が間違っていると言えるでしょう。例えば、野球やサッカーなど「無差別級」のスポーツにも関わらず、イチローや松井、そして中田など世界のトップに君臨している日本人選手は大勢います。彼らは例外なく、デラホーヤなどと同様に幼年期からそのスポーツを初めており、現在はトップクラスのパフォーマンスで人々を魅了しています。もし彼らが十代後半に始めていたら、今の地位にいたでしょうか?

 ボクシングは17階級からなる体重制なので、野球やサッカーなどのスポーツと比べると体格的ハンデは少ないはずです。それにも関わらず、世界のトップ選手と大きな実力差があるのは、他に原因があるのが明らかです。

 日本ボクシング界が、中学生以下の子供たちに試合を認めたくない理由の一つに健康面の憂慮があると思いますが、アメリカやメキシコでは、幼年期からボクシングを始めたボクサーは基礎がしっかりしている為、プロに転向してからも過剰なダメージを受けないので、事故の発生率は低くなっています。逆に、日本のように十分な技術がない状態でプロのリングに上がる方が危険なのではないでしょうか。

 アメリカでは、子供達の健康面には十分気を配っているため、事故が起きたという話は聞いた事がありません。もちろんジムでの練習、スパーリングの時も注意をはらっており、子供にダメージが残らないように最善をつくしています。例えば、経験の少ない子供のスパーリングではレフェリーがつき、1ラウンド1分30秒で行っています。試合の時も、8歳から10歳は1ラウンド1分で、11歳から12歳は1分30秒。5戦以上のキャリアがある選手に限り、1ラウンド2分で行っているのです。

 日本のジムで子供の指導に踏み切れない理由の一つに、日本独特のジム制度も関係しているのではないでしょうか。ジムとしては、ジム経営を成り立たせるためにプロボクサーに重点を置かざるおえず、試合も出れない子供たちに労力を使いたがらないのは理解できます。しかし、目先の事だけではなく、将来のボクシング界を担っていく子供たちの指導無しに、日本ボクシング界の栄光はありえないと思います。確かに、アメリカでは子供を対象としたジム活動には政府から援助金が出るため、日本と比べ条件が良いのですが、宝石の原石を磨くつもりで子供たちの指導に力を入れてほしいと思います。

 もし、日本で小学生や中学生の試合が認められ、日本ボクシング界のレベルが引き上げられ、アマではオリンピック、プロではラスベガスなどで世界のスーパースター達と互角に勝負できるようになれば、必然的にボクシング人気は上昇するのではないでしょうか。




Top