Second Wind
Text By Mayumi Kitano




 フジテレビに「あいのり」という番組がある。
 ピンク色のワゴン車に7人ほどの男女が乗り、外国を旅しながらメンバーのうちから彼氏・彼女を見つけようという企画で、「恋愛バラエティ」とのサブタイトルが付けられている。

 それに、元ボクサーの青年が出ていた。

 「ボクサー」という、そのまんまのニックネームで呼ばれていた彼は、アマチュアで34戦28勝23KOの戦績を残し、プロでも日本ランキング3位にまで上り詰めたものの、タイトル挑戦を前に心臓弁膜症のためボクシング人生を断たれた、と紹介されていた。

 旅の途中で酒に酔い「俺はまだやれる。負けるくらいなら死んでやる」と泣きわめき、暴れる姿が画面に映し出された。ペットボトルから水を口に注ぎ入れると「ボクサー」は、それを勢いよく吐き出し、呻くように「マウスピース…」とつぶやいて地面に倒れ込んだ。

 高校生のときから、夢に向かってボクシングに打ち込んできたという。それを、ある日突然とりあげられた彼の気持ちは、どんなだっただろう。毎日毎日、来る日も来る日も練習に通い、痛い思いをすることも、試合に負けて泣いたこともあったろう。それでも続けてきたボクシングだ。

 20歳を過ぎ、社会人になってからジム通いを始め、拳のケガのためわずか5戦で現役を退いた友人・ヤマザキも、ラストバウトから5年近くが経とうとしている今もなお、夢を中途で断たれたことへの未練を引きずっている。

 多くのボクサーは、ボクシングを辞めたから「ハイ、次」とは簡単に切り換えられないようだ。

 あるボクシング関係者が「ケガでリングを去る人は、ある意味、幸せかもしれないよ。辞める理由があるんだから」と言ったことがあった。

 たしかに、ボクシングは辞めることが非常に難しい競技だとよく聞く。なかなか引退を決意することができず、引退宣言を翻して戻ってくるケースも少なくない。

 そうして現役生活を続けることが必ずしもハッピーエンドに結びつくとは限らないことを考えれば、その関係者が言うことも理解できなくはない。

 でも、本当にそうだろうか。

 もうずいぶん長いこと見続けている選手から聞いた話だが、ある日、仲間と「俺たち、中途半端な力だから辞められないのかもしれないね」と語り合ったことがあったという。日本ランキングに入ったり出たりを繰り返している、現役のA級ボクサーたちである。

 彼らがチャンピオンになったり、脚光を浴びたりすることは、この先も、もしかしたらないかもしれない。

 それでも彼らは、キツい練習に毎日通い、苦しい減量をして、リングに上がり続けるだろう。

 大義名分を与えられ、リングを去った(あるいは去らざるを得なかった)元ボクサーと、迷ったり葛藤しながらグローブを壁に掛けられないボクサーたち。

 果して、どちらが幸福なのだろう。

 私にはまったく見当もつかない。

 ただひとつ、彼らが第2の人生を歩み出すとき、ハンデを抱えることになるような事故がリング上で起こらないことを祈るのみである。

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