林青年の主張 2
林 隆治(ヨネクラジム マネージャー)






☆ 採点基準とは何か?

 最近、微妙な採点が問題になることが多い。ちょうどこの原稿を書いている現在も、ネット上では「小松 対 中沼」の判定をめぐって、大議論が巻き起こっている。この議論を大まかに整理すると、この試合の採点が「不当な地元判定」なのか、それとも「解釈によってはありうる判定」なのか、というのが論点になっているようである。(ネットでは「不当」派が多数を占めているようだが、私の周囲には「微妙だった」という人もいる。ちなみに私は試合を見ていない。)

 不当判定のことに関しては、前に中部批判のくだりで言及したことがあるから、今回はそれについては触れない。

 もし本当に、この試合が不当判定だったとしたら、許されざることではあるが、それは不正を行ったジャッジを批判すればよいことであって、当事者や世論があきらめずに抗議を続けることで、状況を改善していくことは可能である。(と私は信じている。)

 むしろ、不当判定問題より、解釈のずれで毎回毎回、論議が巻き起こるような採点が発生しているのだとしたら、私はそちらの方が、本当は根が深いのではないかと思う。「採点をするための基準」にそもそも不備があるということだからだ。これはボクシングというスポーツの本質を揺るがす大問題である。

 ネット上の発言で、今までとは違う視点での新しい批判があった。それは「このような採点が成り立つボクシングというスポーツが、果たして素人を惹きつける魅力を持っていると言えるのか」というものだった。つまり、この試合の採点が不当なものではなく、一応、解釈によってあり得るとしても、素人にその解釈までついてこい、というのは無理ではないのか、見た目とは逆の採点を付けておいて「これがプロの採点です、素人とは解釈の仕方が違いますから」と言っていたのでは、ファンがついてこないのではないか、という意味だ。

 私は、小松・中沼戦は見ていないから何とも言えないが、それ以前の多くの採点に関する騒動を見てきて、そろそろ、採点基準について、一から点検していく必要があるのではないかと考えている。なぜ、採点に「解釈する余地」が生まれるのか。なぜ世論とプロのジャッジが違う結果を出すのか。なぜ世論が二分されるほど採点とは難しいのか。そのなぜを突き止めることが、採点問題を解決する第一歩になる、と思う。

 それを探るためにまず、正式なルールでは採点基準がどうなっているのか見てみよう。コミッションのルールブック78条に以下のように記されている。


試合の得点はつぎの4項目を基準として評価、採点される。
1 クリーン・エフェクティブ・ヒット(正しいナックル・パートによる的確にして有効なる加撃。有効であるかないかは、主として相手に与えたダメージに基づいて判定される)
2 アグレッシブ(攻撃的であること。ただし加撃をともなわない単なる乱暴な突進は攻撃とは認められない)
3 ディフェンス(巧みに相手の攻撃を無効ならしめるような防御。ただし攻撃と結びつかない単なる防御のための防御は採点されない)
4 リング・ゼネラルシップ(試合態度が堂々としてかつスポーツマンライクであり、戦術、戦法的に相手に優れ、巧みな試合運びによって相手を自己のペースにもっていくこと)


 まあ、ボクシングに少しばかり詳しい人だったら、一度は聞いたことのある4項目だろう。WOWOWでもジョー小泉さんが解説しているし・・・。

 大方の人は、これを基準にしてボクシングは採点されていると思っている。実際、プロのジャッジの人はそうしているかもしれない。

 いや、やはり違う。こんな意味不明な基準で採点できるわけがない。はっきり言おう。こんなルールは、きれいな言葉を並べただけの意味のない空言だ。ジャッジの方々も、これを基準にしている、と固く思い込んでいるだけだ。

 皆さん、虚心になってこのルールをもう一度、読んで下さい。この4項目はもはや当たり前のように存在しているから、みんな分かったような気になっている。その分かったつもりというのが一番怖い。ちゃんと読んでみれば、こんな美辞麗句の羅列を基準にして採点することが、いかに困難なことか分かるはずだ。

 まず、この4項目に優先順位があるのか、それとも全く同等の価値を持ち4項目を総合的に評価するのか、ということさえ明記されていない。クリーンヒット50%、アグレッシブ30%というように、重要度の割合が違うのか、もしくはジョー小泉さんが説明しているように、まず第1項目だけで優劣をつけ、どうしてもつけらない場合のみ、順次、次の項目で判定していくということなのか。その解釈の差だけで、だいぶ採点の仕方は違ってきてしまう。

 次に第3、第4項目については、その存在自体が必要ないのではないかとさえ思えてきてしまう。それほど意味が分からない項目だ。

 「攻撃と結びつかない防御は採点されない」と断るくらいなら、そもそも「ディフェンス」などという項目はなくても良いではないか。だって、結局、攻撃しなければ駄目ですよ、と言っているのだ。それは全て第1、第2項目で語りつくされていることではないか。東洋太平洋Sライト級チャンピオンの佐竹選手は、マタドールと呼ばれ、相手のパンチをスイスイかわすことで有名だが、佐竹選手がいくら一発ももらわなくても、自分も一発もパンチを出さなければ、そのラウンドは取りようがない。むしろアグレッシブさで相手に持っていかれるだろう。ではなんのために「ディフェンス」などという項目はあるのか、私には理解不能だ。(それともディフェンスを取って佐竹選手、なんて冗談みたいな採点をするのか?アグレッシブとディフェンスはこのように矛盾している概念だ。二つを並列させることは理論的におかしいのだ)当然のことながら佐竹選手は、防御しながらも、自分がパンチを当てることによって、ラウンドを取るのであり、それは「ディフェンス」という項目とは関係なく、「クリーンエフェクティブヒット」の部分で、得点できるわけである。

 ディフェンスの悪い選手は、相手にクリーンヒットを許しやすい、ということなのだから、クリーンヒットの優劣ですでにディフェンス力の差は結果が出ていると考えるべきではなかろうか。わざわざこんな矛盾に満ちた項目を設ける必要はない。

 第4項目にいたっては、ほとんどジョークとしか思えない。あなたにこのラウンドをあげましょう、なぜなら戦術・戦法が相手より優れていたから。クリーンヒットは相手のほうが多かったけど。

 そんな馬鹿な話はないわけであって、戦術・戦法・試合運び・ペース支配、それらの結果はすべてクリーンヒットの差に表れるはずなのだ。ボクシングは「型」を採点する競技ではないのだから、そんなところまで評価する必要がないし、そもそも、無理な話ではないか?もしこの第4項目を基準にジャッジングをしたことがある、という人がいたら、どうやってこの項目を採点に反映させるのか、ぜひご教示願いたい。

 さて、ここまで見てきてやはり、クリーンヒットが、採点において一番重要な意味を持っていることが分かる。あの第一項目をどう評価するかが、採点の分かれ目になるのだ。

 その肝心な第一項目だが、この項の文章に不備はないだろうか。それを見てみよう。

 実はこれもよく読んでみると、非常に曖昧で意味が分かりにくいことに気付く。なぜこのような大雑把な表現しか出来ないのであろうか。

 特に見逃せない欠陥は、クリーンエフェクティブヒットがどういうものであるかは細かく説明しているのに、そのクリーンヒットを「どうすれば良いか」が書いていないのだ。

 意味がお分かりであろうか。

例えばサッカーというゲームのルールブックを作るとしよう。「ゴールする」とは何か、ということは確かに説明する必要があるだろう。「ポストの内側にボールを入れること」とか何とか書くことになるに違いない。しかし「ゴールの多いほうが勝ち」という根本のルールを書き落としたとしたら、それは勝敗さえ決することの出来ない全くのナンセンスゲームになってしまう。

 それと同じことだ。このボクシングのルールブックには、「クリーンヒット」をどうすれば得点につながるのか、という述語の部分がすっぽり抜け落ちてしまっているのだ。だから分かりにくいことこの上ない。

 クリーンヒットを「数多く」当てたら良いのか、それとも「強く」当てたら良いのか。それを明記しないから、混乱が生じる。みんな分かったつもりになって「クリーンヒットをちゃんと評価しなければね」などと、したり顔でつぶやいても、結局、「どう」評価してよいか分からないまま漠然と採点することになってしまう。それも仕方ない。ルールに答えはないのだから。

 「クリーンヒット。」と主語だけで文章を終わらせてしまって意味が分かるわけがない。例えばアマチュア的な形態を目指すなら「クリーンヒットの数が多い方を評価する」と明記すべきだし、そうでないなら、そうでない評価方法をしっかり定めるべきだ。

 私の考えを言わせてもらえば、プロなのだからクリーンヒットの数と共に、その強さもちゃんと評価すべきだと思う。そしてそれを、ルール上にしっかり書いておいた方が良いのではないか。

 例えば、というわけではないが、ここに私なりの採点基準の試案を提示してみよう。


試合の得点は以下の項目を基準に評価、採点される。
1.相手に当てたクリーンヒットの数および、その強さによって、相手に与えたダメージの総量。これが多い方がそのラウンドを得点できる。
2.クリーンヒットの数。上記1がお互い同等だと判断され、差がつかない場合は、クリーンヒットの数が多い方が、そのラウンドを得点できる。
3.アグレッシブ。上記2でも差がつかない場合は、手数すなわち数多くパンチを繰り出した方が、そのラウンドを得点できる。


 いかがでしょうか?結局この案でも、クリーンヒットの数・強さ、どちらを優先評価するかは明記されていないから、もめる判定はもめるのだろうが、それでも、「もめる元になる基準」がはっきりしていれば、議論がすれ違いになることもないだろう。今ある混乱は、それぞれがそれぞれの基準(解釈)で採点をしてしまっている、というところにある。

 だから私はその基準にあえて、「ダメージ」という概念を前面に出してみた。「ダメージ=クリーンヒットの数×強さ」と定義付け、どちらが「より多く」「より強く」クリーンヒットを当て、その結果どちらが「よりダメージを与えたか」を判断基準の第一優先項目とした。それで差がつかない場合は、クリーンヒットの数だけを評価、それでも差がつかない場合は手数で判断する。

 うーん、やはり分かりにくいかな。でも現行のルールブックよりはましではないでしょうか。どうでしょうか。

 プロのジャッジの方々などには反論があるかもしれない。私も率直に言って、自分の案や意見に100%の自信があるわけではないので、間違いや勘違いについてご指摘頂ければ幸甚です。

 また採点基準でもめているこういう時は、文句を言うだけでなく、新しいルールを自分で作る、くらいのことを考えると、また新たな視点が開けてくる。皆さんもそれぞれ考えてみてはどうでしょうか?


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