| 極私的ボクシングの歩き方 その4 | ||
| ベルファーレの歩き方 | Text By 中津川 一路 |
「聖地」後楽園よりも小さい会場でボクシングを見る機会はめったにないのですが、女子ボクシングの興行が六本木のクラブ「ベルファーレ」で行われましたのを、観戦に行ってまいりました。キックボクシングの試合などは度々開催されているようですが、JBC無認可とはいえ、「ボクシング」と名のついた興行ですし、クラブの興行という形に興味津々で会場に向かいました。 めったに来ない六本木。ましてクラブなど縁のない僕はネットで手に入れた地図を頼りにベルファーレを探した。六本木通りから裏に道一本入ったところにクラブ・ベルファーレはあった。
開場30分ほど前に着いたが、既に会場の外には観客が並んでいた。たぶんクラブとかには入ったことのない層の方々も、若者に混じっている。 僕が並んでいる前にファンらしき男性が、看板選手の一人で、マスコミの露出も多い八島有美選手の写真を集めたアルバムを見ていて、何か男性のボクシングとはまた別の世界があるのが垣間見えた。 「大変お待たせいたしましたー。」 正装したお兄さんの声で入場開始。長い階段を上り、突き当たりを右に曲がると入り口があり、切符を切られた。従業員の方であろう黒目の服装を着た方が、もぎりをしているのも何か面白い。荷物の預かり所があり、その旨の注意を受け進むと、エレベーターがあり、そこから地下3階のフロアに下りた。エレベーターの中は既にトランス系の音が鳴り、ライトが点滅していた。こうやって客の興奮を駆り立てていくのだろう。選手の身内であろう年配の方が失笑していた。 会場であるダンスフロアに出ると、意外と・・・狭い・・。リングを見るとやや小さめ。ここに何人くらい入るのだろう。 従業員の方に尋ねると、キャパは全部で1500くらいとのこと。2階席もあるがVIPルームってことなのだろう。フロアには700は入るということだった。 リングサイド以外はオール・スタンディングらしいが、テーブルがあり、椅子もあり、それに座って観戦もできるようだ。 「ん?・・・・・」 タバコの臭いが・・・。周囲を探すとテーブルには灰皿があり、吸っている人がいる。ここはタバコOKなのか・・・。さすがクラブだ・・・。まあ、バーもあり、さすがに禁煙というわけにはいかないだろう。 大昔、浅草公会堂などの試合では、タバコの煙でリングがくすんで見えたとか聞いたこともあったが、僕がボクシング観戦をするようになって初めて、喫煙OKの会場だった。確かに映画「レイジング・ブル」や「ハリケーン」などで見た、煙立ち込める会場で戦うシーンは、ある種の風情を感じたが、選手には気の毒に思えた。試合が始まると従業員がメニューを掲げながら、場内を回り注文をとったりしていた。(持ち込みは禁止らしい。)
プログラムは第一試合から第4試合まではヤングファイトと題された3回戦。そして、6回戦2試合とミニフライ級の王座決定戦8回戦、初代バンタム級王座決定戦8回戦と、日本フライ級王者、八島有美とWIBAチャンピオン、看板スター、ライカのノンタイトル8回戦が2試合。計10試合。 試合開始時間になると場内が暗転し、レーザー光線が飛び交い、派手な音楽が鳴り始めた。そしてスクリーンには選手の紹介が映し出される。 画面のプロフィールや試合風景が映し出された後、スモークが焚かれ、選手がリング奥のステージに登場。ポージングシャドーをしてアピールし、リングへ降りてきた。 さすがクラブだ。演出面では華やかなものだ。 音やレーザー光線の量の差こそあれ、第一試合からそのショーアップは変わらない。後楽園ホールでの試合では音楽や照明はある程度、上のランクになってからだ。 最初の3回戦4試合はラフな打ち合いをする選手が少なくなく、ダウンの応酬もあり、一般の観客の方には楽しいかもしれないが、僕は正直見ていてハラハラした。防御を重視しないのは女子でも同じことなのだろうか。しかし、その中で堅実なボクシングをする選手は、確実に勝っていたように思う。 その後も、入場ではアメリカインディアンのコスチュームで入場する選手や虎のコスチュームを着る選手もおり、ビジュアル的には楽しませてくれた。パンフには女性ということか年齢の記載がないので、考慮する条件が一つ欠けるのが残念だ。 試合内容も試合が進むにつれ、徐々にレベルは上がってきた。ただ一方的なのにストップがかからないのには、これもまた冷や冷やした。 タイトルマッチの一つ目は、ミニフライ級王座決定戦は袖岡裕子(SPEED・6勝2敗)VSジプシータエコ(山木・5勝3敗3分)。絞り込まれた体の袖岡と、女性らしい体のラインを残した黄色い髪とコスチュームのジプシー。対照的なルックスだ。ジプシーのリングネームの由来を聞いてみたいと思った。 試合はロープにつめたサウスポー、ジプシーが頼りなげなフォームながら、水平に振りぬいた右フックで袖岡からダウンを奪う。その後袖岡がダウンを奪い返し、やや押し気味に試合を進めた。最終ラウンド、袖岡がジプシーから左右連打でダウンを奪うが、もうだめか・・と思えたジプシーも反撃し、袖岡にダメージを与え、勝負を判定に持ち込んだ。判定は袖岡。ミニフライ級チャンピオンとなった。
バンタム級王座決定戦は豊富なキャリアを誇る菊川未紀(桶狭間・8勝3敗1分け1KO)と元ミニフライ級チャンピオンのマーベラス(SPEED・5勝1敗・日本人。形容詞のみ)。 このマーベラスという選手が本日一番のインパクトを受けた。スピード、パワーともに素晴らしかった。ラフなスゥインガーで見た目にも派手なボクシングをする。しかもスタミナもある。テクニックに定評があるという菊川に、体ごとパンチを叩きつけ、そのまま体を預けてボクシングをさせない。しかし、ただラフなだけでなく、菊川の出鼻に左フックを引っ掛けたり、右を合わせたりとラフなようで、セオリーを踏んでいる部分もあった。ここぞというときはショートパンチもまとめるし、勝負勘も鋭いものがあるようだ。見た目にも三角筋が盛り上がり、上腕二頭筋に血管が浮き出ているのが、離れた席からも見えた。女性らしくない・・といえばそれまでだが、かなり強い。まさにMarvelous(驚異、驚嘆する、すばらしい、不思議な)だ。 菊川も決定打は許さなかったが、ポイントは失ってしまった。 マーベラスは1敗しているようだが、いったい誰に負けたのだろう?と思った。それくらいの強さを感じた。 試合は終始、マーベラスのペースで明確な判定勝ち。 しかし、試合後のインタビューで「納得行かない・・」と言っていた。しかも実力者に明らかな勝ちを得ていながら。マーベラス選手は、元はミニフライのチャンピオンであったそうで、フライ級を飛び越しての制覇となったが、ノンタイトルでフライ級チャンピオンの八島有美を破っているとのことで、実力はピカイチのようだ。いずれはウェートを上げて、ライカ選手とも試合するようになるのだろうか、とさえ思った。それはともかく、彼女のリングネームの由来であろうマーベラス・マービン・ハグラーのように磐石な強さを発揮していって欲しい。(違ったらすいません。)今後、彼女は女子ボクシングの代表選手の一人になっていくのではないだろうか。その割には、僕も初めて知ったぐらいで、看板選手のライカ、八島両選手に比べると注目度が高くないのが、残念だ。 セミファイナルはフライ級チャンピオン、八島有美(Fギャラクシー・8勝2敗1分3KO)がジーナ・レザース(アメリカ・3勝2敗1分)を判定で破った。パンフによれば「元レースクィーン対決」とのこと。ボクシング専門誌で八島選手のボクシングについて、「入り際のサイドステップには中南米の匂いが・・」と書いた記事を読んだことがあったので、どんなボクシングをするのだろう・・と僕は楽しみしていた、とだけ書いておく。 いよいよメインイベントのライカ登場。時間は既に9時を大きく回っていた。 さすがにスターらしく、入場シーンに場内は大きく盛り上がった。ボーイッシュな外見もあるのだろう、女性の人気高いようで、黄色い歓声が飛ぶ。入場テーマに乗ってリングに上がった彼女には、スターの特有の表現しがたいカリスマ性を感じた。 WIBAという団体がどの程度の統括団体かはともかく、世間一般にはそんなことはどうでもいいのだ、と改めて思った。女子の世界チャンピオン、K−1の世界一決定戦、それでも何も知識のない人にとって見れば、WBA、WBCのタイトルも変わりなく映ってしまうのは、少し悲しいが、現実であることは認めざるを得ないだろう。 タイトルのステイタスはともかく、試合内容のレベルは高かった。ライカ(山木・8勝1敗1分4KO)はカバーしながらプレッシャーをかけ、下から左ストレートを突き上げ、接近戦ではショートパンチをまとめ、左右のビックパンチに切り替える。対するIWBFフェザー級3位だというジェリー・フェレス(アメリカ・11勝2敗6KO)は、サークリングしながらスナップの効いたジャブを突き、体を低くして出てくるライカにワンツー、アッパーを合わせた。ライカ選手の前回の試合はTVで見たがそれよりも上手になっているように見えた。フェレスのアッパーもなかなかのものだった。打ち合いの中でも、ロープに下がりながらでも、角度を変えて鋭く突き上げられ、何度もライカの顔面を捉えた。 それによってライカがピンチに陥ることはなかったが、フェレスは互角以上の打ち合いを演じ、場内を沸かせた。 試合はショートパンチで再三、ロープに追い込んだライカ選手が判定で勝利を収めた。
女子のプロの興行をはじめて見たが、それなりの盛況を見せているな、と思った。ファン層がボクシングファンとは違うということ、ショーアップに関してはボクシング界よりも1歩先をいっていることもあって、いつものボクシング会場とは違った雰囲気で、華やかさがあってよかったと思う。試合内容も思っていたよりも悪くはなく、客を沸かせる激しい打ち合いも見られた。が、女性の体で男性と同じように激しい打ち合いをすることに、危惧を覚える。女子ボクシングは、テクニックを競い合うという男子ボクシングとは違った競技として発展してはいけないだろうか。 また、JBCの管轄でないので仕方ないといえば仕方ないが、ジャッジやレェフリングの技術は明らかに問題が多いように思う。ゴングが鳴っても割って入らない場面も再三あったし、ストップのタイミングが遅かったり(防御軽視とストップの遅さは男性も同じだけれど。)、採点でイーブンを多く付けているようだし。ルールでスタンディングカウントも認めているのはともかく、明らかに男性よりもストップが遅いというようなタイミングが多かった。 それに、もし、今後事故が起きた場合、競技として発展途上である女子ボクシングがこうむるダメージは大きなものとなると思うし、ボクシング界全体としても、世間では「ボクシングの事故」ということで、JBC公認だろうが未公認だろうが、ひとくくりで語られることになるだろう。その場合、ボクシング界全体としてダメージを負うことになるのは間違いない。何よりも選手たちは一生懸命戦っているのだ。是非、安全面のより一層の配慮を払って欲しいと思う。 日本の女子ボクシングは明らかに形として成立しつつある。韓国では安全面の配慮と、団体の乱立、混乱の防止のため、コミッションが認めたそうだ。日本は今後どのような展開になっていくのだろう。 表に出ると時間は10時を過ぎていた。 蒸し暑さが気になる六本木の夜を、連れと駅への道を歩きながら、「マーベラスはすごいなあ。」と改めて話をしたが、形容詞がリングネームなのは、なぜなんだろう、とふと思った。 |