林隆治氏へ
元日本バンタム級チャンピオン
尾崎恵一





 元日本バンタム級チャンピオンの尾崎恵一といいます。
先月号のヨネクラジム林マネージャーの原稿の中に私の名前が出てきたので、書かせて頂くことになりました(今回だけですが)。


 まず、確認しておきたいのは、林氏と私の立場の違いです。私は自分のことを評論家などと思ったことは1度もありませんし、ライターを本業としているわけでもありません(誤解している人も多いようですが、私はワールド・ボクシング誌の社員でもなければ、フリーライターでもないのです)。コラム等での私の発言は、1元ボクサー、あるいは1ボクシング・ファンとしての発言です(今後もこのスタンスは変わらないでしょう)。

 ですから、林氏にご批判いただいたワーボク4月号のコラムの内容も、1ファンとしての不満を述べただけです。ボクシングに対する世間一般の認識やマスコミ全般の取材の切り口に対しての不満ですが、その中でテレビ朝日・日曜深夜の「Get Sports」での保住選手等の扱いも例として上げました。それに対して林氏が反論したくなるのも理解できます。ジムマネージャーの林氏としては、自分のジムの選手を取り上げてくれた番組を批判されては(番組製作者に代わって)反論したくなるのは当然でしょう。ですが、林氏自身も、現状のマスコミのボクシングの扱いに満足しているわけではないはずです。なのにあえて「悪魔」になって話を振って頂いたお礼に、ジョッピー対保住の世界戦前後の放送を例にして、私なりに希望する番組作りのスタイルから書きます。

 冒頭で日本の世界王者の階級別分布図を画面に映し出し、竹原の偉業を語るナレーション等で、いかに日本の世界王者がS・フライ級以下に多いか、そして東洋人が世界のミドル級に挑むことの困難さを浮き彫りにする。「そして、そのミドル級にこの男が挑む!!!」と大げさなナレーションとともに保住のどアップが入る(何も私は全てに玄人向けを好むわけではないので、少々の一般向けの演出や誇張はOKです)。ここで、過去の同番組での保住の映像をながし、彼の破天荒ぶりを強調(過去の同番組は「自己紹介」としての効果は認めます)。

 で、ここでもう一捻り欲しいのだ。保住に気持ち良くしゃべってもらうだけでなく、少し突っ込んだ質問のできる聞き手を使い、世界のミドルと戦う不安や本音を聞き出す。実際に専門誌では「最近、発言がおとなしくなってきたよね」なんて突っ込みから、それなりの発言を引き出している。もし保住の口から「昔の俺は子供だったけど、今の俺は変わったよ。相手は強いし怖さもあるけど、(前と違って)練習している今の俺がどれくらい強いか自分でも楽しみだよ」な〜んて言葉でもあったら(期待通りのことを言ってくれるかは分からないが、そこは聞き手の技量でしょう)、単に「破天荒な面白い奴が世界戦をやる」よりも宣伝効果もあっただろう。

 試合後の放送なら、何が足りなかったのか、今後への手応え等をもっと具体的に聞き出してほしかった。今後、日本の重量級が世界を目指すために何が必要か(練習方法や海外修行など)を有識者の意見を聞くなどして明らかにするなどもあって欲しいと思う。で、現時点での力の差を認めた上で、保住の力強い再起宣言(期待通りのこと言ってくれるか分からないけど)。そして「眠れる天才がついに目覚めた!!!」とした方が次への期待感は膨らむ。

 「ドラマ性」と「技術性」は完全に分離する必要はなく、1回の放送で共存させることも出来るはずです。もし林氏の言うように、ボクサーが自己紹介が終わっていないほどの存在だとしても、「スローカーブをもう1球」などの頃の故山際淳二氏のように、無名選手やマイナー競技を取り上げる手法はある。本来「Get Sports」はそうした硬派なスポーツ番組だと思いますし、ボクシングという競技自体は、例えばカーリングやカバティなどのようにルールも知られていないようなスポーツではないのです(最近の世界的採点傾向などは認知されてないでしょうが)。

 「そんなのマニアが思っているだけ」とまた批判されそうですが、世界タイトル戦までもが「ドラマ性」のみで「技術性」で語られなくなったら、この競技もいよいよ終わりです。絶対そうではいけないはずです。 ジョッピー対保住戦の翌日には全くボクシングに詳しくない人からも「レベル違いましたよね?」と言われました。実況では「一発当たればいいんです!」と叫んでいましたが、素人の彼には一発のパワーさえもジョッピーが上に見えたようです(ラリオス対仲里なら別でしょうが)。

 先月の林氏の原稿の中には、粂川麻里生氏の個人サイトのことも書いてありました。その中の掲示板での林氏の発言は「テレビを見る人の大半はボクシングには素人。だからこの程度は許容範囲だ」として、誇張した実況等も肯定していますが、これにも疑問です。現状を憂うボクシング関係者の一部は、新たなファン獲得ばかりに目が行きがちですが(これがK−1等を参考にしようとかガチンコを肯定したりの思考につながるのですが)、既存のファンを離さない(白けさせない)努力もまた一方では必要ではないでしょうか。

 ワーボク4月号で私が言いたかったのは、初心者からマニアまで、さまざまなファン層が絡み合ってこそ日本のボクシングが支えられるということ。そうなることは日本のボクシング全体のレベル向上にも関係するということで「文化」という言葉を使ったのです。ワーボク3月号の「日本ボクシング改革案」(これについては後でも書きますが)でも書いたように、日本のボクシングが繁栄していくには、「強化策」も絡ませて進めていく必要があるはずだからです。

 ワールド・カップを機に露出したサッカー報道によって(少なくとも当時は)「フラット3」の言葉くらいは、その辺のおばチャンでも知ってました。Jリーグについても「戦術」について語るファンは多いようだ。理屈をこねるファンが増えるばかりが競技としての成熟とは思わないが、ドーハの悲劇を「悲劇」ととらえているうちは日本サッカーの進化はない、という意見をどこかで聞いた事がある。サッカーファンの意識と、求めるものは変わってきている。そして今、日本サッカーの実力は上がっているようだ。 だから、真の日本ボクシング再建へ向けての報道姿勢(もっと言えばファンの欲求の流れ)への不満を書きました。私の希望は林氏のご指摘通り「性急」なのかもしれないですが、現状がベスト(あるいは仕方ない)なのかどうかも疑問です。


 粂川氏のサイトの掲示板における林氏の役割は今なお大きい。林氏は我々のような部外者が知りえない部分(特に金銭面の収支などについて)を説明する数少ない人物であり、今後もファンの質問に可能な限り答えてあげて欲しい。ただ、マスコミの報道に関しての意見は「一般のボクシングの認識なんてその程度なんだからしょうがないじゃん。こんなのもありだよ」としか聞こえません。情報を発信する側(林氏が報道しているわけではないですが)がこういう意識ではやはり寂しい。この部分についてはやはりこう言いたい。「そこに理想はあるのか?」と。


 トップレベルの報道についての意見は以上の通りですが、林氏の「ドラマ性」と「技術性」という分析は興味深かったです。保住クラスの選手は「技術性」込みで語って欲しいですが、「明日のジョー」から続いているボクシング(及びボクサー)の一般のイメージを変えて身近なものに感じさせ、新たなファンを会場に足を運ばせる努力は必要です。

 変わったボクサー個人にスポットを当てるのではなく、「高学歴ボクサー特集」とか「イケ面ボクサー特集」、雑誌ではあった「刺青ボクサー特集」とか「珍しい副業のボクサー特集」などの「ドラマ性」満載の企画も面白い。ボクシングを愛する有能なテレビマンが夕方のニュースのスポーツ・コーナーにでも、こんな企画を通してくれないものか。3月号の林氏の原稿によると「そんな好時間枠の番組は頭が高い」のでしょうが、「ドラマ性」での掴みはそういう時間帯でこそ。で、「Get・・・」や「ZONE」等の硬派の番組?(ボクサーが取り上げられた時以外は見たことないのですが)では「技術性」の切り口でボクシングを扱って欲しい。

 「悪魔」に突っ込まれる前に言っておきますが、有力ジムの会長諸氏が自分のジムの選手を系列局以外の企画に出したがらない傾向くらいは私でも知っています(後でも書きますが、協会内にそうした調整をする機関を置くことも必要でしょう)。 が、世界王者クラスならば肖像権などの問題も生じて当然ですが、それ以前の選手ならばもう少し心にゆとりが欲しい。(他局だろうが)露出されればジムにチケット購入に来る人も出るだろう。そうした協力体勢がないことが、結果的には自分の首を絞めているというのが、日本ボクシング界の最も悪い体質。「アイデア出してるのに協力してくれない」と言う一方で「そんな企画にうちの選手は出せない」などの変なプライドや縄張り意識を聞くこともよくあるのだ。林氏の言葉を借りれば、「本当にヤバイ」現状なのに、なぜか業界は一丸とならないのだ。

 今回ここで私が書かせてもらおうと思ったのは先月の原稿で私の名前が出たためだが、3月号の林氏の原稿で「知恵」という言葉が出た時から少し心が動いていました。 そこで、ワーボク3月号のコラム「日本ボクシング改革案」についての具体的方向を書きます。断っておきますが、私は強い選手が出れば人気は回復する、とか日本人同士の好カードを組んでさえいれば客は入るなんて甘いことは考えていません(それでは第2の辰吉、第2の畑山の出現を指をくわえて待っているのと同じですから)。

 まず、協会内に広報部を設置して記者クラブ担当の人間を置く必要がある(ここが窓口になれば先に書いた調整も可能だ)。現在、各ジムの努力に任せているスポンサー集めなども、独立して行動する部署を協会内に作るべきだと思う。そうした体制のもとで、「東日本ボクシング協会」の発表としてマスコミを集めて記者会見を開く。原田政彦氏や輪島公一氏らのビッグネームが「日本に世界王者が1人しかいない現状を重く考え、ボクシング界は今、生まれ変わります!」として、プロテストを厳しくして競争意識を高め、勝ち残ったものには金銭的恩恵と、さらなるチャンスが与えられる形をつくることを発表する。
 こうすれば、一般紙のスポーツ欄にも載って、まず最初の注目は浴びるだろう。そうするとプロテスト自体が真のドラマになってマスコミの目がそこに向く。日本人は正月の箱根駅伝でタスキが繋げなかった・・・とか、シード権当落ドラマの涙と感動・・・なんていうのが大好きだ。「ナンバー」などのスポーツ総合誌に、加茂佳子さんや藤島大さんなどのプロのライター達の「プロテスト・ルポ」などの記事が載るケースも出てくるだろう。 彼等なら間違いなく、選手達のボクシングへの思いや競技の奥深さまでも(私と違ってマニア以外にも)伝えてくれるはず。突然変異のブームを求めるならテレビかもしれないが、この手のスポーツ総合誌に取り上げられれば十分プラスにはなる。そうした記事を読んで入門してくる選手達は当然、意識が高いので好選手が生まれる確率は高くなる。ジムの大小に関わらず(最低でも)日本王座まではたどり着けるシステムを確立させておけば、小さいジムにも入門者は増えて業界も少しは潤うことになる(プロライセンスが簡単に取れなくなり、練習生が継続しなくなると困るので、プロ予備軍に目標意識を与える工夫は必要だが)。

 ジムの大小に関わらず・・・はA級トーナメントを80年代後半の活気のもとに復活させること。今年は残念ながら中止になってしまったが、スポンサー集めその他で工夫すれば実現できるはず。実現されれば、高橋ナオトのような人気者は出てくるはずだし、当時のナオトが世界挑戦していれば視聴率も取れたと思う。仮に敗れたとしても批判は小さかったはずだ。
 練習環境に恵まれない、地方の選手の中で勿体無い大器がいる場合は中央との交流の橋渡しをしてあげるくらいの意識もあっていい(湯場とワタナベジムでは行われていたのだが・・・)。
 レパード玉熊が世界を獲った時に小熊正ニ氏がコーチしたケースなどは(急に特別コーチが付く事の是非は別として)「業界あげて」の意識だったと思う。仲里がラリオス戦で大健闘した背景にも、沖縄ワールドリング・中真茂会長の人徳から、沖縄のボクシング人一丸で、の意識があったと思うのだ。数少ない重量級ホープが出てきた場合など、(資金まで何とかしろとは言いませんが)海外修行のルートを紹介するとか、合同練習の機会を考える等のアイデアも必要かもしれない。

 A級トーナメントに話を戻すと、80年代後半に好選手が集まったのは、賞金やタイトル挑戦権だけの魅力ではなく(MVP含めて100万ったって、当時でも特別の大金ではない)、フジテレビで放映されていた意味は大きい。予選からハイライトで全選手を紹介していたおかげで、私程度の選手でもそれなりに知られた存在になれた。選手は皆、「もっと輝きたい」「より認められたい」という意識が強いのだ。
 「だから、そのテレビが付かないんだろ!」って?「悪魔さん」?
 じゃあ、1階級か2階級に絞っての「G+カップ」なんて出来ないのだろうか(もちろん他のCS局の冠でもいい)。地方の選手も参加すればその地域のCS加入者も見込めるし、スポンサー料の期待も少しは出来るかもしれない。「じゃあ出たいです」と言い出す選手もいるはずです。有力ジムが「よその系列に選手は出せない」姿勢ならば、全ては期待するだけ無理なのでしょうか?

 何か長くなりすぎて自分でも何を言ってるのか分からなくなって来ましたが、私が言いたいことは、日本のボクシングに活気を出させるのは、「人気面」だけでも「強化策」だけでも駄目だということ。そして、そのためには本当に本気になっての各ジムの協力体制が必要だということです。テレビはじめマスコミへの批判はそうした気持ちからの希望であり、現実は林氏の言う通りかもしれません。後半部分の「知恵」についても、この程度の「知恵」は林氏はすでに持っていて、「悪魔」としては全て潰せるものかもしれません(しかし「知恵」はしぼればもっと出るはずです)。


 たしかに「悪魔のディベート」は物事を合理的に進めるために有効ですし、私自身、考える切っ掛けを与えてもらって感謝しています。が、そうした考え方は1つ間違えば「そんなの無理だから協力しないよ」という、この業界の悪しき繰り返しを生み出しかねません(もちろん議論の遊びとして「悪魔役」を買って出てくれただけで、林氏の行動方向は違うのでしょうが)。

 林氏が日本のボクシング界の中で大きな影響力を持ったり、抜本的な改革を推し進めるような立場になるのは10年、20年後かもしれません。ですが、何れにしても業界を変えていく、いや自ら変わっていくには業界内部の人間の力が全てです。我々、外野のファンはただ願うだけなのです。そう、ボクシング界の人々の意識に理想があって欲しい、と。


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