| 元東洋太平洋バンタム級チャンピオン Text By 新田 渉世 |
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| 角海老宝石ジム 田中栄民トレーナー |
| フォトグラファ山口が欠席― 正直言うと今回の「戦士と語る」は不安だった。というのは、今回の"戦士"田中栄民トレーナー(角海老宝石)のことをほとんど知らない。そして以前角海老宝石ジムを訪ねた時、愛想なく怖い顔でこちらを見ていた印象だけが残っていたから・・・ おまけに私は面会日を当日ドタキャンし、翌日に変更してもらうという大迷惑もおかけしている。 山口がいれば多少会話に詰まっても何とか乗り切れるだろうに。前回訪ねた真部豊氏からは、心の通じ合っている人間を紹介してもらうことになっていたので、それがせめてもの安心材料だった。 意を決してJR大塚駅そばの角海老宝石ジムへ飛び込むと、予想外にもニコニコした田中兄い(失礼)が出迎えてくれるではないか。 ―大丈夫かも知れない・・・ 近くのすし屋へ場所を移し、とつとつとトレーナー論を語り始めた名トレーナー。 ―大丈夫かも知れない・・・ 自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。
ややふけ顔(再び失礼)だが、肌のツヤといい、かもし出すオーラといい、10歳は若く見える。 「トレーナーはね、話術も大切なんですよ。選手によっていろいろと言葉を使い分けなきゃいけない。」 自分のスタイルを押し付けるわけではなく、選手を勝たせるためにはどうしたらよいのか、"褒める""叱る"を使い分けるなどの柔軟な姿勢が、結果を生む要因のひとつなのだと語る。 ご本人のキャリアは、16歳でアマチュア社会人選手権の準優勝。決勝では、後の世界チャンピオンロイヤル小林に判定で敗れた。20戦のアマキャリアのうち、黒星はその1戦だけだった。 中村ジムからプロデビューして2戦程したが、交通事故で網膜はく離になり選手としての道を断念した。 おそらくそのまま選手生活を続けていれば、名選手、大選手として歴史に名を刻んでいたかも知れない。 引退後しばらく"悪の道"(詳しい内容は語ってもらえなかったが・・・)を歩んだ後、先輩の誘いを受けて茨城県の小島工芸ジムでトレーナーとしての第一歩を踏み出した。その後角海老宝石ジム開設に伴い、立ち上げ時からのスタッフとして活躍が始まった。 世界フライ級チャンピオン小林光二、日本バンタム級チャンピオン小林智昭、東洋太平洋Jウェルター級チャンピオン伊藤直樹、日本ストロー級・Jフライ級チャンピオン細野雄一他、数々のチャンピオンを育ててきた。 彼らのうちの何人かはリアルタイムで観戦しているため、私にとってもなつかしい名前だった。特に小林智昭氏については、高橋直人(バックナンバーVol.4)との番狂わせの一番や、引退後スポーツライターに転身し、取材中に事故で亡くなってしまった点など、特別印象に残る人物だった。 「あいつは不器用だけど、いつもやる気満々の男だった。俺は好き嫌いがはっきりしている人間だけど、ヤツのことは好きだったね・・・。」 名トレーナーと呼ばれる男が、遠くを見つめながらながらつぶやいた。 好き嫌いがはっきりしている― 気性の激しい名トレーナーは、何度かジムと衝突してそこを飛び出している。現在在籍する角海老宝石ジムでも、彼は"出戻り"である。8年間在籍した宮田ジムからの出戻り。しかし、どこへ行っても"職人"としての"腕"は確かだった。宮田ジムでは、日本Sフライ級チャンピオン松倉義明、日本Sバンタム級チャンピオン真部豊を育て"エディタウンゼント賞"を受賞している。
前回の"戦士"真部豊氏(マナベジム会長)が、 「田中トレーナーが宮田ジムから角海老宝石ジムへ移籍した時、沢山の選手や練習生があの人を追いかけて移籍していきましたよ。」 と語っていた。 "職人"田中栄民の魅力とは一体どこにあるのだろうか。 「やっぱり日々の会話ですね。愛情と知性を持って接することです。」 強面の"職人"は自身に満ちた表情で答えた。 "話術"の意味が今やっと分かった気がした。単なる言葉のテクニックではなく、愛情と知性を持って話をする術(すべ)を"話術"と表現したのだ。 「そりゃ、いくらこっちが一生懸命やったって、人でなしもいるし、裏切りもありますよ。」 それでも、"職人"は愛情と知性を持って選手や練習生達にぶつかっていくのだ。 「ボクサーとして不完全だった負い目が、今の研究心につながってるんだと思いますね。」 謙虚さと気の強さが共存した人間でなければ、湧いて来ない発想ではないだろうか。 結局"田中兄い"のファンになってしまった私は、ライターの立場を忘れて自分の人生相談で時間を費やしてしまった・・・ クールな面と熱い面を合わせ持った、声のかっこいい"田中兄い"―これからもよろしくお願いします。 追伸 ところで前回の"戦士"はマナベジム会長の真部豊氏でしたが、これは前々回の"戦士"内藤大助選手からの紹介でした。文面上、誰の紹介だったかが曖昧となってしまいました。各方面からお叱りをいただいております。 それぞれにとって大切な方を紹介いただいているわけですから、少々配慮がたりなかったと反省しております。今回は大目に見ていただきたくよろしくお願い致します。 |
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