| 元東洋太平洋バンタム級チャンピオン Text By 新田 渉世 Photo By 山口 裕明 |
![]() |
||
| 内藤大助(宮田) |
| 現場編として再スタートしてから3回目を迎えた「戦士と語る」− 今回は昨年4月に史上7人目となる海外での世界タイトル奪取に挑んだものの、よもやの1RKOで敗れてしまった現日本フライ級1位の内藤大助選手(宮田ジム)。新橋の小料理屋「志満」で語ってもらった。 |
||||||||||||||||||
ゼネコンの技術者でもあるサラリーマン内藤大助は、中島みゆきの「地上の星」とともにリングに入場した。 "軽快"―このひとことが、その様を表すのに最も的確だ。試合前にそんなに動いたら疲れちゃうんじゃない?というくらいよく動く。しかしその動きは実に軽やかでスピーディ。たまに若い選手でこういうタイプを見ることもあるが、28歳という年齢を全く感じさせない。やたら無駄に動く選手はあまり好きではないが、ここまでくると逆に好感さえ覚える。 試合っぷりもよかった。この手の選手は足ばかり使って逃げ回るタイプが多いが、出入りが激しく手数も多い。当然カウンターをもらいそうな場面も多く、見る側はスリル満点である。格下のタイ人相手ではあったが、結果はあっけなく2RTKO勝ち。試合後、宮田会長相手のミット打ちと"バック転"を披露して余裕をアピールしていた。これで3連続KO勝利だ。次は日本タイトル挑戦の話も浮上している。 早く彼と話してみたい―めずらしくそんな欲求にかられた。 試合の5日後、JR新橋駅SL広場で仕事帰りの彼と待ち合わせた。初対面の彼は少々困惑気味であるかのようだった。 というのは・・・前回の"戦士"川崎竜希くん(草加有沢ジム)は紹介出来る友人が見つからず、先輩である前々回の"戦士"コウジ有沢に助け舟を出してもらった。ところが、コウジくんも内藤大助とはまだそんなに親しいわけではなく、本人にとってはいきなり知らない人間から食事に誘われたようなものだったのだ。 まあ細かいことはともかく、同じ"ボクシング人"なんだからということで「志満」でのトークが始まった。 「中学の頃はいじめられっ子でした。お金とられたり"ヤキ"を入れられたこともありました。体が小さいせいもあったんですが、自分自身にも原因があったんです。あのころは自分が大嫌いだった。何でも人と同じでないと不安で"自分"というものが無かったんです。それがボクシングを始めてから"自分"を持てるようになったんです。今では人と違うことをしている自分が大好きですね。」 「自分の弱いところをさらけ出せるって素敵なことですよね・・・」 同行したフォトグラファ山口がボソッといいことを言った。 あのリング上での軽快な"舞"からは想像がつかない少年時代だが、今ではしゃべりも軽快でこの夜もボクシングスタイルそのままのトークといった印象だった。 彼の変身を物語るエピソードがある。 昔自分をいじめた相手から電話があり、試合を見たいというのでチケットを手配したところ、相手は支払いをせずに音信不通になってしまった。やっと電話でつかまえた相手に、きちんと支払うよう強く催促をした。 「昔なら敬語で、"あのぉ〜、チケット代なんですけど・・・"って感じで"いいじゃねえかよ"って言われたらそのまま諦めてたと思うんですけどね。絶対とっ捕まえて払わせますよ。ボクシングを始めて強くなったのはやっぱり精神力です。今なら事故か何かで片足だけになってしまったとしても、もうイジメられることはないと思いますよ!」 そんな素敵で強くなった内藤大助を陰で支える奥さんは、彼いわく"大ざっぱなA型"。
一般的にA型の血液型の人間は神経質と言われるが、内藤夫人は実に大ざっぱらしい。 ボクサーの妻にもいろいろなタイプがいるが、試合に際してその実力は遺憾なく発揮されているようだ。 「うちの女房はホント大ざっぱというか、悲壮感みたいなものが全然無いんですよ。"大さ〜ん、頑張ってぇ〜"って感じでニコニコ応援してくれるんですよね。試合前の減量時でも、"沢山食べて頑張ってねぇ〜"とお肉をバンバン出してくれるし、試合とバレンタインが重なった時も"食べて〜"って、こんな大きいチョコをくれるんですよ。」 2つ年上の奥さんのことを話す時の大さんはひときわ軽快だ。 「オイオイ、何考えてんだよって感じなんですけどね。でもそんな女房のこと、オレ大好きなんすよっ。」 ごちそうさま。 ホントに大好きって感じが伝わってきて、なんとなくほのぼのしてくる。そして軽快なトークはますます調子を上げ、「志満」の料理がおいしいせいもあってか、大さんは食べる食べる。 「もう一杯おかわりいいっすか?なんかもう少しおかず無いすか?」 昔イジメられた小柄な体は、今やエネルギーのかたまりとなってオーラを発している。初対面だった大さんも、たっぷり喋ってたっぷり食べて、帰りには昔から友達みたいな雰囲気に・・・ これだから「戦士と語る」はやめられない。 別れ際、軽快なフットワークでひとごみに消えていった大さん― そのうしろ姿を見ながら、中島みゆきの「地上の星」が聞こえてくるような気がした。 |
![]() |