| HEART BEAT PHOTOGRAPH | Photo Text By 山口裕朗 |

「1月28日、日本ライト級タイトルマッチ」 |
| この日私が後楽園ホールに足を運んだのは、老獪なチャンピオン嶋田雄大を、豊富なキャリアとスピードを身上とする小野淳一がどうさばくのか、ハイレベルな駆け引きが見れるのではないか、といった理由だけではなかった。自分のラストファイトを闘った階級のタイトルマッチであるという理由が大きかった。 辞めてもう4年にもなろうというのに、このあたりの階級の試合を見ると他人事ではないような胸のうずきを感じてしまう。 リングに上がったチャンピオンの体は、無駄な脂肪が燃やされていて、筋の浮き上がった上腕二頭筋や大胸筋、そして、チャレンジャーを゛キッ″と見据えた鋭い目つきが王者である自信に満ちていた。チャレンジャーは、目をひく金髪のソフトモヒカンというへアースタイルとは対照的に、青白い静けさを身に纏っていた。 本来なら小野のスピードが生きる距離であると思われた中間距離からチャンピオンのジャブ、フックが的確にヒットし、2ラウンドが終わる時にはチャンピオンが主導権を握っていた。5ラウンドからは、ほぼ一方的な試合になり、古傷の両瞼をカットした小野にはもう反撃する力は無くなっていた。チャンピオンが二度目の防衛を果たした。 チャンピオンの堂々とした王者としてのボクシングは素晴らしいものだった。しかし、ファインダーを覗く私の目は、力を無くした小野の目に吸い寄せられていた。 最近ボクシングの写真を撮る事に、ただの撮影者として向き合っていたように思う。写真的に面白い絵を撮ろうという気持ちばかりが先に立っていて、写真を撮る上で大切なものを見失っていたのではないかと・・・。 控室で出番を待つ時スピーカーら聞こえる激しく打ち鳴らされるゴングの音や観客の歓声、グローブの革と汗の混ざった独特の匂い、ごみ箱に放り込まれる赤く染まったバンテ−ジ、会場への薄暗い階段を上る時のひんやりとした空気、そんな全てに、過敏なまでに緊張感を高めていたボクサーとしてそこにいた自分、そんな自分には何が撮れるのか、必ずあるはずなのだ。この夜の闘いは、私にそんな大切な核を思い出させてくれた熱い闘いだった。理由はわからないのだが、小野の目に大きく揺さぶられたのだった。 試合後、水道橋でライターの丸山さんとビールを呑んだ。熱い闘いの余韻と確信を持ってシャッターをきった事で興奮していた体に冷たいビールが心地良かった。二ヶ月前から吸い始めたタバコに火をつけ、もうあそこには戻らないのだと、大きく煙を吸い込んだ。 |